一見、製造業とは無縁に思えるエンターテイメント業界。しかし、ミュージカル作品の制作現場で用いられる「プロダクションマネジメント」の手法には、我々の生産管理やプロジェクト運営を一段高いレベルに引き上げるためのヒントが隠されています。
畑違いの業界に見る「プロダクションマネジメント」
先日、海外のエンターテイメント情報サイトで、あるミュージカル作品に関する記事が掲載されました。その中で、「プロダクションマネジメント」という言葉が使われていました。これは、私たち製造業でいうところの「生産管理」と同じ英語表現ですが、その対象は全く異なります。彼らが管理するのは、物理的な製品ではなく、俳優、脚本、音楽、舞台装置、照明、音響といった無数の要素を組み合わせ、定められた予算と期間の中で一つの「作品」として完成させるプロセスそのものです。
これは、いわば究極の一品生産であり、極めてクリエイティブな要素が絡むプロジェクト管理と言えるでしょう。各分野の専門家(プロフェッショナル)たちが集まり、互いに連携しながら、観客に感動を与えるという無形の価値を創造する。このプロセス全体を円滑に進行させ、最高の品質を引き出すのが、エンターテイメント業界におけるプロダクションマネージャーの役割なのです。
製造業のプロジェクト型生産との共通点
この話は、決して私たち製造業と無関係ではありません。特に、顧客ごとに仕様が異なる産業機械の設計・製造、あるいは次世代製品の試作開発といったプロジェクト型の業務とは多くの共通点が見出せます。
例えば、設計、資材調達、加工、組立、品質保証といった各部門の専門家が連携しなければならない点。厳しい納期とコストの制約の中で、技術的な課題を乗り越えなければならない点。そして最終的に、顧客が満足する品質・性能を実現するというゴール。これらは、舞台作品を創り上げるプロセスと本質的に通じるものがあります。私たちは、定められた図面通りにモノを作るだけでなく、多様な専門性を束ね、不確実性に対応しながら、新たな価値を生み出すという高度なマネジメントを日々実践しているのです。
エンタメ業界の手法から何を学ぶか
では、彼らの手法から具体的に何を学べるでしょうか。一つは、計画の柔軟性と現場での迅速な意思決定です。舞台制作では、稽古(リハーサル)を通じて日々改善が繰り返されます。机上の計画通りに進めることよりも、現場で起きる問題や俳優たちの化学反応を活かし、より良い作品にするための変更を厭いません。このアジャイルなアプローチは、変化の激しい現代の製品開発において、固定化された計画に固執するリスクを教えてくれます。
また、最適なチームを編成する「座組」という考え方も示唆に富んでいます。プロジェクトの成功のために、その都度最高の専門家を集め、権限を委譲し、一つのチームとして機能させる。組織の壁や既存の役割分担に捉われず、目的達成のために最も効果的な体制を柔軟に構築する視点は、部門間の連携が課題となりがちな日本の製造現場においても大いに参考になるはずです。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、私たちは以下の点を改めて認識し、日々の業務に活かすことができると考えられます。
1. プロジェクトマネジメントとしての生産管理:
日々の生産管理を、単なる工程の進捗管理と捉えるのではなく、多様な専門家を束ねて顧客価値を創造する高度な「プロジェクトマネジメント」であると再定義する視点が重要です。これにより、管理者やリーダーの役割意識が変わり、より大局的な判断が可能になります。
2. 現場起点の柔軟な計画修正:
初期計画を遵守することの重要性は論を待ちませんが、同時に、現場で発生する課題や新たな発見に即応できる、柔軟な計画修正のプロセスを組み込むべきです。問題の早期発見と迅速な対策実行を促す現場文化が、最終的な品質と納期遵守につながります。
3. 目的志向のチーム編成:
部門の垣根を越え、プロジェクトの目的に応じて最適な人材を結集させる「プロジェクトベースド」なチーム編成を積極的に試みる価値は高いでしょう。これにより、コミュニケーションが活性化し、問題解決のスピードが向上することが期待されます。
4. 「体験価値」を追求する品質目標:
製品のスペックや機能だけでなく、顧客がその製品を使用することで得られる「体験価値」までを品質目標に据える視点も有効です。舞台作品が観客の感動を目指すように、私たちの製品が顧客にどのような満足や成功をもたらすかを追求することが、真の品質向上に繋がります。


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