積層造形と設計・解析ツールの連携が拓く、次世代部品開発の最前線 ― Sintavia社の熱交換器開発事例に学ぶ

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航空宇宙分野向けの金属積層造形(AM)を手掛ける米Sintavia社は、先進的な設計・解析ソフトウェアとの連携により、次世代熱交換器の開発を加速させています。本稿ではこの事例を基に、製造プロセスと設計プロセスを一体で捉えることの重要性と、日本の製造業における示唆を解説します。

はじめに:高性能化と軽量化を両立する積層造形(AM)

航空宇宙分野をはじめ、多くの産業で製品の高性能化、軽量化、そして開発リードタイムの短縮が求められています。特に、限られたスペースで高い熱交換効率を要求される熱交換器のような部品においては、その設計と製造の難易度は年々高まっています。従来の切削加工やろう付けといった製法では、設計上の制約が大きく、性能向上には限界が見え始めていました。こうした課題に対し、金属3Dプリンタに代表される積層造形(AM: Additive Manufacturing)技術が、解決策として大きな期待を集めています。

Sintavia社が構築した先進的な開発プロセス

航空宇宙産業向けの金属AM部品サプライヤーであるSintavia社は、この課題に対する一つの先進的なアプローチを示しました。同社は、次世代の高性能熱交換器の開発において、自社のAM技術に加え、nTopology社の先進設計ソフトウェアと、ANSYS社のシミュレーションソフトウェアを連携させた開発プロセスを構築しました。

このプロセスの核心は、以下の3つの要素の緊密な連携にあります。

  1. 設計(nTopology):従来のCADソフトウェアでは作成が困難であった、極めて複雑な三次元格子構造や、ジャイロイド構造(TPMS: 三重周期極小曲面)と呼ばれる表面積の広い内部構造を、パラメータベースで迅速に生成します。これにより、熱交換効率を最大化するための革新的な設計を短時間で試行錯誤できます。
  2. シミュレーション(ANSYS):nTopologyで設計された複雑な形状のCADデータを、ANSYSの流体解析(CFD)ツールに取り込み、熱伝達効率や圧力損失といった性能を仮想空間で評価します。物理的な試作品を製作することなく、設計案の優劣を迅速に判断できるため、開発の手戻りを大幅に削減できます。
  3. 製造(Sintavia):シミュレーションによって性能が検証され、最適化された最終設計データを、Sintavia社が持つ金属AM技術で忠実に造形します。これにより、従来製法では不可能だった複雑な内部流路を持つ一体型の熱交換器が実現されます。

この「設計→シミュレーション→評価」というサイクルを高速で繰り返すことにより、開発期間を劇的に短縮するだけでなく、人間が直感的には思いつかないような、性能的に優れた設計に到達することが可能になります。これは、いわゆる開発のフロントローディングやモデルベース開発(MBD)を、AMという新しい製造技術と組み合わせることで、より高いレベルで実現した事例と言えるでしょう。

「作れるものを作る」から「作るべきものを作る」へ

Sintavia社の事例が示す重要な点は、AM技術を単なる「既存部品の代替製法」として捉えていないことです。むしろ、AMでしか実現できない複雑な形状を前提として設計を行う「DfAM(Design for Additive Manufacturing)」という思想が根底にあります。製造方法の制約から解放されることで、設計者は部品の持つべき機能や性能を純粋に追求できるようになります。これは、製造業における設計と製造の関係性を大きく変える可能性を秘めています。

これまでは、加工方法や組み立ての制約の中で、いかに要求性能を満たすかを考えるのが一般的でした。しかし、AMと先進的な設計・解析ツールが連携することで、まず理想的な性能を発揮する形状を追求し、それを実現する手段としてAMを用いる、という逆のアプローチが可能になるのです。

日本の製造業への示唆

今回のSintavia社の事例は、日本の製造業に携わる我々にとっても多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

  • DfAM(積層造形のための設計)思想の浸透:
    AM技術の導入を検討する際、単に3Dプリンタという設備を導入するだけでなく、その能力を最大限に引き出すための設計思想(DfAM)を、設計・開発部門に浸透させることが不可欠です。部品の一体化による点数削減、軽量化のためのラティス構造の活用、機能向上のための複雑流路の設計など、AMならではの価値を追求する視点が求められます。
  • デジタルツールの連携による開発プロセス革新:
    先進的な設計ソフトウェアとシミュレーションツールを連携させることで、開発の初期段階で多くの設計案を試行し、性能を予測・評価する体制を構築することが重要です。これはAMに限った話ではなく、あらゆる製品開発において、リードタイム短縮と品質向上に貢献します。部門間でツールやデータが分断されている状況を見直し、シームレスな連携を目指すべきでしょう。
  • 専門領域のパートナーシップ(エコシステム)の活用:
    今回の事例は、Sintavia(製造)、nTopology(設計)、ANSYS(解析)という、それぞれ異なる専門性を持つ企業が連携することで成り立っています。全ての技術を自社で抱え込むのではなく、外部の優れた技術や知見を持つパートナーと協業し、エコシステムを構築することも、これからのものづくりにおいて重要な戦略となります。

AM技術はまだ発展途上であり、コストや品質保証などの課題も残されています。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、製造技術そのものだけでなく、上流にある設計・開発プロセスから一体で変革していくという視点が不可欠です。今回の事例は、その具体的な方向性を示す好例と言えるでしょう。

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