韓国の有力製薬会社、保寧(ボリョン)製薬のCEOは、企業の成長の原動力は「社会的使命」にあると語ります。異業種から転身した経営者が語る、事業の本質と未来への挑戦は、日本の製造業にとっても多くの示唆を与えてくれます。
企業の「本質」に立ち返る重要性
保寧製薬のチャン・ドゥヒョンCEOは、製薬会社で働く上での根源的な動機として「社会的使命と責任」を常に意識してきたと語ります。彼によれば、製薬会社の本質とは「良い薬を作り、患者の苦しみを和らげること」に他なりません。このシンプルで力強い理念が、事業活動すべての判断基準になっていることが伺えます。これは、我々日本の製造業においても、自社の製品や技術が社会にどのような価値を提供しているのか、その原点を見つめ直すことの重要性を示唆しています。日々の生産性向上やコスト削減の追求もさることながら、その先にいる顧客や社会への貢献という大義を全社で共有することが、組織の一体感と従業員の士気を高める上で不可欠です。
異分野の視点がもたらす変革
チャンCEOは、コンサルティングファームから保寧製薬に転身し、生産管理や人事といった現場に近い部門のリーダーを経験したのち、CEOに就任したという興味深い経歴の持ち主です。外部の客観的な視点と、社内の実務経験を掛け合わせることで、伝統的な組織に新たな発想や変革をもたらすことができたと考えられます。日本の製造業においても、生え抜きの人材が持つ現場知と、外部から招聘した人材が持つ俯瞰的な視点をいかに融合させていくかは、持続的な成長のための重要な経営課題と言えるでしょう。特に、部門横断的な視点を持つリーダーの育成は、サイロ化しがちな大規模組織において極めて重要です。
主力事業の深化と未来領域への挑戦
同社は、高血圧治療薬「カナーブ」という強力な主力事業で安定した収益基盤を築いています。そして、その基盤の上に、新たに「宇宙ヘルスケア」という未来志向の事業領域への挑戦を開始しました。これは、既存事業の知見を活かしながら、全く新しい市場を創造しようとする意欲的な取り組みです。既存事業の改善・効率化(深化)と、新規事業の探索(探索)を同時に進める「両利きの経営」は、多くの企業にとって理想でありながら実践が難しいテーマです。安定した収益源を確保しつつ、その利益を大胆に未来へ投資する同社の姿勢は、我々が学ぶべき点が多いと言えます。
従業員の誇りを育む経営
チャンCEOは、従業員が自社に誇りを持ち、社会的使命を共有できる会社を目指していると述べています。企業の理念やビジョンが、単なる経営層の言葉で終わるのではなく、現場で働く一人ひとりの従業員の心に響き、日々の業務の動機付けとなって初めて、組織は真の力を発揮します。これは、日本の製造現場が大切にしてきた「良いものをつくる」という職人の矜持や、品質へのこだわりとも通じるものです。経営層が明確なビジョンと社会的使命を繰り返し発信し続けることが、従業員のエンゲージメントを高め、組織全体の求心力を生み出す原動力となります。
日本の製造業への示唆
今回の保寧製薬の事例は、私たち日本の製造業にいくつかの重要な視点を提供してくれます。
第一に、自社の事業が持つ「社会的使命」を改めて見つめ直し、それを経営の揺るぎない軸として全社で共有することの重要性です。日々の業務の意味を問い直すきっかけとなり、従業員のモチベーション向上につながります。
第二に、既存事業の収益性を高め、そこで得た利益や知見を未来の成長分野へ大胆に投資する「両利きの経営」の実践です。短期的な収益確保と、長期的な企業価値創造のバランスを取る上での好例と言えます。
第三に、多様なバックグラウンドを持つ人材の活用です。異業種の知見や客観的な視点を取り入れることで、組織の硬直化を防ぎ、新たなイノベーションの種を育むことができます。
最後に、企業のビジョンや使命を従業員一人ひとりの「誇り」へと昇華させる経営の姿勢です。結局のところ、企業を動かすのは人であり、その心を動かす普遍的な価値観を提示できるかどうかが、企業の持続的な成長を左右すると言えるでしょう。


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