一見、製造業とは縁遠いエンターテインメント業界のニュースから、我々の事業運営に通じる普遍的な原則を読み解くことができます。今回は、ある舞台制作の体制から、専門性を活かしたプロジェクトマネジメントとサプライヤー連携の重要性について考察します。
役割分担が明確なプロジェクト体制
英国で発表されたミュージカル『ハイスクール・ミュージカル』の記念公演に関する情報の中に、その制作体制についての記述がありました。具体的には、「プロダクション管理はA社」「ゼネラルマネジメントはB社」「製作はC社」というように、プロジェクトにおける各機能が、それぞれ専門性を持つ外部の企業によって分担されていることが示されています。これは、演劇という一つの「製品」を創り上げるために、高度に専門化された企業群がエコシステムを形成している好例と言えるでしょう。
この構造は、我々製造業における新製品開発や工場建設プロジェクトにも通じるものがあります。例えば、製品のコアとなる設計・開発は自社で行い、生産設備の設計や導入は専門のエンジニアリング会社に、部品の調達や物流はそれぞれ得意なサプライヤーに委託する、といった形です。各社が持つ知見や技術、ネットワークを最大限に活用することで、プロジェクト全体の品質、コスト、納期(QCD)を最適化しようとする考え方は、業界を問わず共通していることがわかります。
「最適なチーム編成」がもたらす価値
なぜ、このような専門分化されたチームを組むのでしょうか。それは、全ての機能を自社で抱える「自前主義」には限界があるからです。特に、変化の速い現代においては、市場の要求や最新技術に自社だけのリソースで追随し続けることは容易ではありません。そこで、各分野で最も高い専門性を持つ外部パートナーと連携することで、プロジェクトの成功確率を飛躍的に高めることができます。
舞台制作の例では、プロダクション管理のプロは、複雑なスケジュール管理や技術スタッフの調整に長けており、ゼネラルマネジメントのプロは、予算管理や契約、マーケティングといった事業運営全体を円滑に進めるノウハウを持っています。それぞれの専門家が持ち場で最高のパフォーマンスを発揮することで、結果として作品(製品)の価値が最大化されるのです。これは、製造現場においても、保全は専門会社へ、品質分析は外部の試験機関へ、といった形で外部の専門性を活用する場面と何ら変わりありません。
全体を束ねる「プロデューサー」の役割
一方で、こうした専門家集団が円滑に機能するためには、全体を統括し、一つの目標に向かってベクトルを合わせる存在が不可欠です。今回の事例における「製作(Produced by)」を担う企業が、その役割を果たしています。彼らはプロジェクト全体の責任者として、最終的なゴール(公演の成功)を見据え、各専門企業をまとめ上げ、意思決定を下していきます。
これは、製造業におけるプロジェクトマネージャーや、サプライチェーン全体を管理する調達部門の役割に相当します。個々のサプライヤーの能力が高いだけでは、良い製品は生まれません。それらを適切に組み合わせ、管理し、時には課題解決の先頭に立つ統括機能があって初めて、プロジェクトは成功へと導かれます。特に、複数の企業が関わる大規模なプロジェクトにおいては、この統括役の力量が成否を分けると言っても過言ではないでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、我々日本の製造業が学ぶべき点は以下の3点に整理できます。
1. 自前主義からの脱却と外部専門性の積極活用
自社のコアコンピタンスを見極め、それ以外の領域については、外部の専門企業の力を積極的に活用する視点が重要です。特に、デジタル技術の活用や環境対応といった新しい経営課題に対しては、知見を持つパートナーとの連携が、事業変革のスピードを上げる鍵となります。
2. 明確な役割分担と責任範囲の定義
プロジェクトを成功させるためには、関与する社内外の各担当者・企業の役割(RACIなど)と責任範囲を初期段階で明確に定義することが不可欠です。誰が何に責任を持つのかが曖昧なままでは、連携がうまくいかず、問題発生時の対応も遅れてしまいます。
3. サプライヤーを束ねるマネジメント能力の強化
多様な専門性を持つパートナーやサプライヤーを効果的にまとめ上げ、プロジェクト全体を成功に導くプロジェクトマネジメント能力、サプライヤーマネジメント能力は、今後ますます重要になります。単なる「発注者」ではなく、共に価値を創造する「パートナー」としてサプライヤーと向き合い、統率していく力が求められます。


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