ソフトウェア業界の起業家が、製造業の常識に挑んでいます。米国で急成長する「SendCutSend」は、ウェブサイトにCADデータをアップロードするだけで、数日後にはレーザーカットされた部品が手元に届くサービスです。その背景にあるのは、製造プロセスを根本から見直した、徹底的なデジタル化と自動化の思想でした。
ソフトウェア起業家が感じた、製造業の「不便さ」
米国ネバダ州に本拠を置くSendCutSend社。創業者のジム・ベロシック氏は、もともとソフトウェア業界で成功を収めた人物であり、製造業の経験はほとんどありませんでした。彼がこの事業を始めたきっかけは、自身の趣味であるプロジェクトで部品を調達しようとした際に感じた、製造業特有の「不便さ」でした。見積もりに数日かかり、発注プロセスは煩雑で、部品が手元に届くまでには数週間を要する。この旧来のやり方に、彼は大きな改善の余地を見出しました。
日本の製造現場でも、特に試作品や小ロットの部品を外注する際には、同様の経験をお持ちの方も少なくないでしょう。ベロシック氏が着目したのは、この時間と手間のかかるプロセスを、ソフトウェアの力で根本から変革することでした。
「誰でも、速く、簡単に」を実現するビジネスモデル
SendCutSendのサービスは極めてシンプルです。利用者はウェブサイトにCADデータをアップロードし、材質や板厚、数量などを選択するだけ。すると、価格と納期が即座に自動計算され、オンラインで決済すれば発注が完了します。数日後には、レーザーカッターやウォータージェット、CNCなどで加工された高精度の部品が手元に届きます。
このサービスの最大の特徴は、これまで大手企業や専門家でなければアクセスしにくかった高度な加工技術を、個人の発明家や中小企業の技術者、さらには学生にまで開放した点にあります。一点からの注文にも対応し、圧倒的なスピードと手軽さを提供することで、ものづくりの裾野を大きく広げる可能性を秘めています。
成功の鍵は、徹底したプロセスの自動化
この「即時見積もり、短納期」というサービスを支えているのは、ベロシック氏がソフトウェア業界で培った知見を活かした、徹底的なプロセスの自動化です。顧客からアップロードされたデータは、人の手を介さずに製造可能性がチェックされ、見積もりが算出されます。受注後は、複数の注文を一枚の材料シートに効率的に配置する「ネスティング」という工程も自動で行われ、最適な加工指示が現場の機械に送られます。
つまり、見積もりから生産計画、加工、進捗管理、出荷準備に至るまで、サプライチェーン全体がデジタルデータで一気通貫に管理されているのです。これにより、従来の製造業では管理コストや段取り替えの手間から採算が合わなかった小ロットの注文を、効率的に処理できる体制を構築しています。まさに「マスカスタマイゼーション」を地で行く仕組みと言えるでしょう。
製造業の未経験者でも活躍できる現場
興味深いのは、SendCutSendの工場で働く従業員の多くが、必ずしも製造業の熟練工ではないという点です。彼らの仕事は、高度なスキルを要する機械操作そのものよりも、システムが自動で生成した指示に従い、材料をセットしたり、完成品を仕分け・梱包したりすることにあります。
これは、複雑な判断やノウハウがシステム側に集約されているため、作業者はシンプルなタスクに集中できることを意味します。日本の製造業が直面する、熟練技能者の高齢化や人手不足といった課題に対し、こうした「人のスキルに依存しない生産体制」は、一つの解決策を示唆しているのかもしれません。
日本の製造業への示唆
SendCutSend社の取り組みは、単なるオンライン受託加工サービスに留まらず、日本の製造業にとっても多くの実務的なヒントを与えてくれます。
1. 顧客体験(UX)起点のプロセス改革
自社の技術力を高めるだけでなく、「顧客がいかに簡単に、速く、ストレスなく発注できるか」という視点が、競争優位性を生み出す重要な要素になっています。見積もり回答の迅速化や、発注プロセスの簡素化は、すぐにでも着手できるテーマではないでしょうか。
2. 部分最適から全体最適へのデジタル化
個別の加工機を自動化するだけでなく、見積もり、受注、設計、生産計画、出荷という一連の業務プロセスを、データで繋ぎ、一気通貫で効率化することの重要性を示しています。サイロ化しがちな各部門の情報を、いかに連携させるかが鍵となります。
3. 新たな市場の開拓
小ロット・短納期のニーズに徹底的に応えることで、これまで取引のなかった個人や小規模事業者という新たな顧客層を開拓しています。既存のビジネスモデルでは見過ごされてきたニッチな市場に、大きな事業機会が眠っている可能性があります。
4. 異業種の知見の活用
この事例の根幹にあるのは、製造業の常識に染まらないソフトウェア業界の思考法です。自社の強みや弱みを客観的に捉え、時には外部の専門家や異業種の知見を積極的に取り入れることで、これまで思いもよらなかった業務革新が生まれるかもしれません。


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