インドのITハブとして知られるカルナータカ州が、デジタルコンテンツ分野の産業振興策を打ち出しました。一見、製造業とは縁遠い話題に聞こえますが、その戦略の根底にある「産業エコシステムの構築」と「未来を見据えた人材育成」という考え方は、日本の製造業が直面する課題を乗り越える上で、重要な示唆を与えてくれます。
インド・カルナータカ州の産業振興策
インド南部カルナータカ州の州都ベンガルールは、多くのIT企業が集まる「インドのシリコンバレー」として世界的に知られています。同州は近年、AVGC-XR(アニメーション、VFX、ゲーム、コミック、XR)と呼ばれるデジタルコンテンツ産業のグローバル拠点となることを目指し、政策的な後押しを強めています。先般開催された関連イベント「Bengaluru GAFX 2026」では、州政府が産業振興のためのロードマップを提示しました。その柱として掲げられているのが、「未来に対応できる人材の育成」「生産エコシステムの強化」「独自の知的財産の促進」の3点です。これは、特定の産業分野に限らず、あらゆる産業が競争力を維持・強化していく上で普遍的なテーマと言えるでしょう。
製造業における「生産エコシステム」の再定義
ロードマップで言及されている「生産エコシステム(production ecosystems)」という言葉は、我々製造業にとっても非常に示唆に富んでいます。これは単に原材料の調達から製品の出荷までを担うサプライチェーンを指すだけではありません。自社工場だけでなく、地域の協力会社、部品メーカー、大学や公的研究機関、さらにはDXを支援するITベンダーなども含めた、より広く有機的な協力体制、いわば「産業の生態系」を意味します。日本の製造業は、長年にわたり系列や特定の協力会社との緊密な連携によって高い品質と効率を誇ってきました。しかし、技術革新の加速やグローバルな市場変動に対応するためには、従来の枠組みを超えた、よりオープンで柔軟なエコシステムの構築が求められます。例えば、地域の大学と共同で次世代材料の研究を行ったり、異業種のスタートアップが持つAI技術を品質管理に応用したりといった連携が、新たな価値創造の源泉となり得ます。
求められる「未来に対応できる人材」とは
もう一つの柱である「未来に対応できる人材(future-ready talent)」の育成も、製造現場における喫緊の課題です。工場の自動化やスマートファクトリー化が進む中で、作業者に求められる能力は大きく変化しています。従来の熟練技能や手先の器用さに加え、ロボットやIoT機器から得られるデータを理解し、生産性向上のための改善に繋げる能力、あるいは複数の工程を理解し、チーム全体で課題解決にあたる協調性などが、ますます重要になっています。これは、特定のスキルを教えるだけでなく、変化に適応し、自ら学び続ける姿勢を持った人材をいかに育てるかという、より本質的な問いかけです。インドの政策が、単なる技術者養成ではなく「未来に対応できる」という言葉を使っている点に、その意図が表れていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のインドの事例から、日本の製造業が改めて認識すべき要点を以下に整理します。
1. 産業エコシステムの再評価と構築
自社の強みは、自社内だけで完結するものではありません。地域のサプライヤーや大学、さらには異業種との連携も含めた「エコシステム」全体で競争力を捉え直す視点が重要です。従来の取引関係に安住せず、新たなパートナーシップを積極的に模索することが、変化の時代を生き抜く鍵となります。
2. 未来を見据えた戦略的な人材開発
目先の欠員補充や技能伝承も大切ですが、5年後、10年後の工場の姿を具体的に描き、そこから逆算して今どのような人材を育成すべきかを考える、戦略的な人事・教育計画が不可欠です。OJT 중심의 伝統的な育成手法に加え、デジタルリテラシー向上などの体系的な研修プログラムを組み合わせることが求められます。
3. 異分野の動向から学ぶ姿勢
ITやデジタルコンテンツといった一見無関係に見える分野の産業政策やビジョンにも、自社の経営や現場運営を改善するためのヒントが隠されています。自社の事業領域に閉じこもることなく、広く社会や技術の動向にアンテナを張り、そこから学びを得る姿勢が、企業の持続的な成長を支えるでしょう。


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