米国の製造業を代表する業界団体である全米製造業者協会(NAM)が、恒例の「State of Manufacturing Address(製造業の現状に関する年次報告)」を発表しました。本報告では、米国製造業の力強い成長が強調される一方で、持続的な発展に向けた政策的な課題も提示されており、日本の製造業関係者にとっても示唆に富む内容となっています。
全米製造業者協会(NAM)による年次報告の概要
全米製造業者協会(National Association of Manufacturers: NAM)は、米国の製造業全体の利益を代表する有力な業界団体です。毎年年初に発表される「State of Manufacturing Address」は、米国製造業の現状分析と、政府や議会に対する政策提言を明らかにする重要な機会と位置づけられています。
今回、NAMのジェイ・ティモンズ会長兼CEOは、米国各地を巡るツアーの冒頭で演説を行い、国内の産業が力強い勢いを取り戻しつつあることを強調しました。近年のサプライチェーン再編の動きや、政府による国内製造業への投資促進策が、この勢いを後押ししていると見られます。しかし、その一方で、この成長を持続可能なものにするためには、解決すべきいくつかの重要な課題があると指摘しています。
米国製造業が直面する主要な課題
NAMが特に問題視しているのは、主に「人材不足」「過剰な規制」「税制」の3つの分野です。これらは、多くの日本の製造業にとっても、決して他人事ではない共通の課題と言えるでしょう。
第一に、熟練労働者の不足は依然として深刻な問題です。製造現場の自動化やデジタル化が進む一方で、それを支える高度なスキルを持つ人材の確保と育成が追いついていない状況が指摘されています。これは、生産性の向上や技術革新の足かせとなりかねない、構造的な課題です。
第二に、事業活動を阻害する可能性のある規制の増加に対する懸念が示されています。環境規制や労働関連法規などが、企業の競争力や投資意欲に与える影響を慎重に見極め、現実的な政策運営を行うよう求めているものと考えられます。現場の実態にそぐわない規制は、かえって産業の活力を削ぐことになりかねません。
第三に、国際競争力を維持するための税制の重要性を訴えています。特に、研究開発(R&D)投資に対する税額控除の恒久化など、企業の技術革新を後押しする税制の維持・強化を強く求めているようです。設備投資や研究開発は、製造業の生命線であり、それを促進する政策の有無が、中長期的な国の競争力を左右します。
日本の現場から見た米国の動向
今回のNAMの報告は、米国の製造業が直面する課題を浮き彫りにすると同時に、日本の我々にとっても多くの示唆を与えてくれます。特に注目すべきは、業界団体が一体となって、具体的なデータを元に政府や議会へ積極的に政策提言を行っている点です。個々の企業の努力だけでは解決が難しい構造的な課題に対し、業界全体として声を上げ、事業環境の改善を図ろうとする姿勢は、大いに参考にすべきでしょう。
また、米国では近年、半導体関連のCHIPS法やインフレ抑制法(IRA)など、国家戦略として製造業の国内回帰や先端技術への投資を強力に後押ししています。今回のNAMの報告も、こうした大きな流れの中で、民間企業が活動しやすくなるような、より具体的な環境整備を求めたものと捉えることができます。国と民間が連携して産業競争力を高めようとする米国の動きは、グローバル市場で競合する日本企業にとって、常に注視すべき対象です。
日本の製造業への示唆
今回のNAMによる年次報告から、日本の製造業関係者が得るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. 政策動向の重要性の再認識
米国の減税や補助金、規制緩和といった政策は、グローバルな競争環境やサプライチェーンに直接的な影響を及ぼします。自社の経営戦略や設備投資計画を立案する上で、こうした海外の政策動向をマクロな視点で把握しておくことの重要性が増しています。
2. 業界全体での課題解決
人材不足や規制対応といった課題は、一社の努力だけでは限界があります。米国のNAMのように、業界団体などを通じて課題を共有し、政府や関係機関に対して具体的な働きかけを行っていくアプローチは、日本においても今後さらに重要になるでしょう。
3. サプライチェーン戦略の継続的な見直し
米国の国内生産回帰(リショアリング)の動きは、部品や素材の調達先に影響を与える可能性があります。地政学的なリスクも考慮しながら、自社のサプライチェーンの脆弱性を常に評価し、調達先の複線化や生産拠点の最適化を継続的に検討することが求められます。
4. 技術投資を後押しする環境
研究開発や設備投資を促進する税制のあり方は、企業の国際競争力に直結します。米国の動向を参考にしつつ、自社の技術開発戦略や投資計画が、国内外の政策支援を最大限に活用できるものになっているか、定期的に見直す視点も有効です。


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