韓国の自動車部品メーカーHanjung社が、米国インディアナ州に北米初の製造拠点を設立する計画を発表しました。この決定の背景には、顧客への近接性、労働力の確保、行政との連携といった、海外工場設立における普遍的な成功要因が見て取れます。
韓国Hanjung社、米国インディアナ州に新工場を建設
韓国の自動車部品メーカーであるHanjung NCS社の米国法人、Hanjung America社が、約3500万ドル(日本円で約55億円相当)を投じ、米国インディアナ州ハンティントンに新工場を建設する計画を明らかにしました。同社にとって北米初の製造拠点となり、2027年末までに最大90名の新規雇用を創出する見込みです。
新工場では、自動車用のステアリングおよびサスペンション関連部品、特に電動パワーステアリング(EPS)向けの部品を製造する計画です。約16,700平方メートルの敷地に建設されるこの工場は、現代トランシス社やGM社といった主要顧客への供給拠点としての役割を担うことになります。
立地選定の背景にある3つの要因
今回の米国進出において、同社がインディアナ州ハンティントンを最終的な建設地として選定した背景には、大きく3つの要因が考えられます。
第一に、「主要顧客への近接性」です。インディアナ州は、古くから「米国の製造業の中心地」として知られ、多くの自動車メーカーや大手部品メーカーが生産拠点を構えています。主要顧客の工場に近い場所に自社の拠点を置くことは、物流コストの削減や納期の短縮はもちろん、品質問題への迅速な対応や共同開発の推進といった、サプライヤーとしての競争力強化に直結します。
第二に、「熟練した労働力の確保」が挙げられます。製造業が盛んな地域では、工場運営に必要なスキルや経験を持つ人材を見つけやすいという利点があります。海外での工場立ち上げと安定稼働において、質の高い労働力を継続的に確保できるかどうかは、極めて重要な成功条件の一つです。
そして第三に、「州・地方政府からの手厚い支援」です。インディアナ州経済開発公社(IEDC)は、同社の雇用計画に基づいた業績連動型の税額控除や研修助成金の提供を約束しています。また、ハンティントン市も独自の税制優遇措置を検討しており、こうした行政からの積極的なインセンティブが、最終的な投資判断を後押ししたことは想像に難くありません。
電動化シフトとサプライチェーン再編の潮流
Hanjung社が製造する電動パワーステアリング(EPS)部品は、EV(電気自動車)へのシフトが進む中で、今後も需要拡大が見込まれる分野です。今回の米国工場設立は、まさに成長市場である北米のEV関連サプライチェーンに、深く組み込まれるための戦略的な一手と見ることができます。
また、近年の地政学リスクの高まりやパンデミックによる供給網の混乱を受け、世界的にサプライチェーンの「地産地消」や「ニアショアリング(近隣国での生産)」へと回帰する動きが加速しています。顧客の生産拠点の近くに自社の工場を構えるという今回の判断は、供給の安定性を高め、事業継続リスクを低減するという観点からも、非常に理にかなった戦略と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のHanjung社の事例は、海外への生産拠点設立を検討する日本の製造業にとって、改めて基本に立ち返るべき多くの示唆を与えてくれます。
1. 顧客近接性の再評価:
グローバルな供給網が複雑化する現代において、主要顧客の生産拠点の近くに自社拠点を配置するという「マーケットイン」の発想は、コスト、納期、品質(QCDS)の全てにおいて依然として有効な戦略です。特に、顧客との密な連携が求められる部品メーカーにとっては、物理的な距離の近さが競争優位に繋がる場面は少なくありません。
2. 進出先の労働市場とインフラの精査:
工場運営の成否は、質の高い労働力を安定的に確保できるかにかかっています。現地の教育水準、製造業における就業経験者の数、賃金水準、そして労使関係の慣行などを詳細に調査することが不可欠です。あわせて、電力や水の供給安定性、物流網の整備状況といったインフラ面の評価も、操業リスクを測る上で重要な検討項目となります。
3. 行政との連携とインセンティブの活用:
海外進出に伴う多額の初期投資は、経営上の大きなリスクです。州政府や地方自治体が提供する税制優遇措置や補助金、インフラ整備支援などのインセンティブを最大限に活用することは、投資回収期間の短縮に大きく寄与します。進出候補地の行政機関と早期にコンタクトを取り、良好な関係を築きながら交渉を進めることが望まれます。
4. 事業戦略との連動:
今回の事例は、EVという明確な成長市場への対応という目的がありました。自社の製品・技術が、進出先の市場でどのような成長機会を持つのかを冷静に分析し、グローバルな生産体制の最適化と連動させた投資判断が求められます。目先のコスト削減だけでなく、中長期的な事業成長にどう貢献するのかという視点が不可欠です。


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