多くの製造現場で自動化への投資が進む一方、期待したほどの効果が得られていないという声も聞かれます。本稿では、自動化の投資対効果を最大化するために不可欠な、設備導入の先にある「新しい思考法」とマインドセットについて、日本の製造業の実務者の視点から解説します。
「点の自動化」から「線の自動化」へ
製造現場における自動化を検討する際、我々は特定の作業や工程をロボットに置き換える「点の自動化」から発想しがちです。例えば、人手で行っていた部品の搬送や組み立て作業を、そのままロボットに代替させるというアプローチです。もちろん、これにより特定の作業負荷の軽減やヒューマンエラーの削減は期待できますが、生産ライン全体の生産性向上に繋がるとは限りません。
ある工程の処理能力だけが向上しても、その前後の工程がボトルネックとなり、結果としてライン全体のスループットは変わらない、という事態は多くの現場で経験されてきたことでしょう。自動化の真価を発揮させるためには、個々の作業だけでなく、工程間の連携やモノの流れを含めた「線」、ひいては工場全体のプロセスという「面」で捉え、全体最適の視点から設計し直すという思考の転換が求められます。
設備導入はゴールではなく、スタートである
最新の自動化設備を導入すること自体が目的化してしまうケースも散見されます。しかし、言うまでもなく、設備投資はあくまで生産性向上や品質安定化といった目的を達成するための「手段」に過ぎません。重要なのは、導入した設備をいかに使いこなし、継続的に改善していくかです。
そのためには、設備から得られる稼働データや品質データを収集し、分析する仕組みが不可欠となります。生産管理ソフトウェア(MESなど)と連携させることで、設備の稼働状況をリアルタイムで可視化し、停止要因の分析や予防保全に繋げることができます。自動化設備は、導入した瞬間から価値を生み出し続ける「生きた資産」です。データを活用し、現場が主体となって改善を回していくサイクルを構築することこそが、投資効果を長期的に高める鍵となります。
既存のオペレーションを尊重した段階的アプローチ
大規模な自動化ラインを一気に導入するには、多額の投資と長期の生産停止が必要となり、特に体力に限りがある中小規模の工場にとっては現実的ではありません。元記事でも触れられているように、既存のオペレーションを中断することなく、段階的に自動化を進めるアプローチが有効です。
例えば、まずは既存の設備や人の作業と共存できる協働ロボットを導入したり、工程間の搬送をAGV(無人搬送車)に任せたりするなど、比較的小さな範囲から始めるのです。そこで得られた知見や効果を検証しながら、徐々に対象範囲を広げていく「スモールスタート」は、リスクを抑制しつつ、現場の習熟度を高める上でも理にかなった進め方と言えるでしょう。この際、将来的な拡張性を見据え、異なるメーカーの機器でも連携できるようなオープンなシステム設計を心掛けることが賢明です。
日本の製造業への示唆
本稿で述べた「新しい思考法」は、我々日本の製造業が置かれた状況を鑑みる上で、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
- 技術と組織の連携:自動化プロジェクトは、技術部門だけの課題ではありません。生産、品質管理、保全、そして経営層までが一体となり、導入目的や目指すべき姿を共有する全社的な取り組みとして推進する必要があります。
- 熟練技能の形式知化:日本の強みである熟練技能者の技術やノウハウは、自動化と対立するものではありません。むしろ、彼らの知見を自動化システムの設計やデータ分析に活かすことで、単なる省人化に留まらない、より高度なものづくりを実現できる可能性があります。自動化は、技術伝承の一つの手段としても捉えるべきです。
- 柔軟な自動化の追求:多品種少量生産が主流となる日本の現場では、特定の製品しか作れない硬直的な自動化ラインはそぐわない場面が増えています。段取り替えが容易で、様々な製品に柔軟に対応できる、汎用性の高い自動化システムの構築が今後の競争力を左右するでしょう。
- データ活用人材の育成:今後、製造現場では、設備を操作するスキルに加え、そこから得られるデータを読み解き、改善に繋げるスキルがますます重要になります。現場のオペレーターがデータを活用できるような教育体制の整備は、急務と言えます。
自動化は、単に人を機械に置き換えることではありません。生産プロセス全体を再設計し、データを活用して組織全体の能力を向上させるための、経営戦略そのものであると認識することが、これからの日本の製造業には求められています。


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