製造現場で日々生成される膨大なデータを、いかにして迅速かつ的確な意思決定に繋げるか。本稿では、AVEVA社の生産管理ソフトウェアが示す「カスタムデータビュー」という機能に着目し、これからの生産管理システムに求められるデータ活用の柔軟性について考察します。
はじめに:定型レポートの限界と現場のニーズ
多くの製造現場では、生産管理システム(MES/MOM)が導入され、生産実績や設備稼働状況、品質情報などが収集・記録されています。しかし、その多くはシステム側で用意された定型的なレポートやダッシュボードで表示されることが多く、現場の管理監督者や技術者が本当に見たい切り口でデータを分析するには、データを一度エクスポートして表計算ソフトで加工するといった手間が必要でした。これでは、問題の兆候を捉えるまでに時間がかかり、迅速な対応が難しくなるという課題がありました。
現場の課題は、日々変化し、その要因も複雑に絡み合っています。例えば、「特定の製品を特定のラインで生産した時だけ、なぜか不良率がわずかに上昇する」といった微細な変化を捉えるには、生産実績、設備パラメータ、作業者、原材料ロットといった複数の情報を、自由な切り口で組み合わせて比較検討する必要があります。「見たいデータを、見たい形で、すぐに見る」というニーズは、継続的な改善活動を行う日本の製造業にとって、極めて重要であると言えるでしょう。
データの可視化を「自分ごと」にするカスタムビュー機能
こうした現場のニーズに応える一つの方向性として、AVEVA社のProduction Managementソフトウェアが提供する「カスタムデータビュー」機能は示唆に富んでいます。これは、ユーザー自身がマウス操作で、表示したいデータ項目を選択し、並べ替え、フィルタリングやグループ化を行うことで、独自の分析画面やレポートをその場で作成できる機能です。
これは、単なる高機能なレポートツールという位置づけではありません。重要なのは、IT部門やシステム開発者に依頼することなく、現場の担当者が自らの仮説に基づいて試行錯誤しながらデータ分析を行える点です。例えば、ラインのリーダーが「最近多発しているチョコ停と、その直前の設備センサーの値には相関があるのではないか」という仮説を立てた際、すぐに関連するデータを組み合わせて時系列で表示し、チームで共有することができます。これにより、データに基づいた議論が活性化し、改善活動の質とスピードが向上することが期待されます。
現場主導のデータ活用がもたらす効果
このような柔軟なデータビュー機能が現場にもたらす効果は、単なる業務効率化に留まりません。第一に、問題発見の感度が高まります。固定的なKPIを眺めるだけでは見過ごしてしまうような異常の予兆を、多角的な視点から捉えることが可能になります。第二に、属人化しがちなベテランの「勘」や「経験」を、データという共通言語で形式知化し、組織全体で共有・伝承しやすくなります。ベテランが見ている独自の指標をカスタムビューとして再現することで、若手技術者への教育にも繋がるでしょう。
そして何より、現場の担当者が自らデータを分析し、改善に繋げるという成功体験を積むことで、データ活用の文化が組織に根付きます。これは、昨今注目される「データの民主化」を製造現場で実現する具体的なアプローチの一つと言えます。
日本の製造業への示唆
今回の機能が示す方向性は、今後の日本の製造業がDXを推進する上で重要な視点を提供しています。以下に要点を整理します。
1. 収集から活用へのシフト:
データをただ収集・蓄積する段階から、現場の誰もがそれを容易に「活用」できる段階へと移行することが不可欠です。生産管理システムを選定・更新する際には、単に機能が豊富であるかだけでなく、現場のユーザーがどれだけ直感的かつ柔軟にデータを扱えるか、という点を重要な評価軸に据えるべきでしょう。
2. 現場主導の改善活動(カイゼン)のデジタル化:
日本の製造業の強みである現場の改善力を、デジタル技術でさらに強化するという視点です。QCサークル活動などで議論する際、手作業で集計したデータではなく、リアルタイムの信頼できるデータに基づき、様々な角度から分析・検証できる環境は、改善の質を飛躍的に高める可能性を秘めています。
3. 人材育成の重要性:
優れたツールも、使いこなす人材がいなければ価値を生みません。現場の従業員が、自ら課題を発見し、データを活用して仮説を立て、検証するという一連のプロセスを遂行できるような、デジタルリテラシー教育への投資がこれまで以上に重要になります。現場の知恵とデジタルツールが融合して初めて、企業の競争力は真に高まると考えられます。


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