中国の金型メーカーが、日本発祥の「アメーバ経営」を導入し、目覚ましい成長を遂げている事例が報じられました。本稿ではこの事例を基に、部門別採算管理と現場の経営参加意識がもたらす効果について、日本の製造業の実務者の視点から考察します。
中国企業におけるアメーバ経営の導入
海外の金融情報によると、中国の精密金型メーカーであるFirst Mold社が、京セラの稲盛和夫氏が考案した「アメーバ経営」を導入し、画期的な成長を達成しているとのことです。報道によれば、同社の「金型製造アメーバ」のリーダーは、自部門の需要と売上が増加していると会議で報告しており、現場レベルで経営成果が明確に意識されている様子がうかがえます。日本で生まれた経営手法が、競争の激しい中国の製造現場で成果を上げている点は、我々にとっても興味深い事例と言えるでしょう。
アメーバ経営の基本と目的
ここで改めて、アメーバ経営の基本について触れておきます。この経営手法は、組織を「アメーバ」と呼ばれる独立採算の小集団に細分化し、それぞれのリーダーに経営を任せる点に特徴があります。各アメーバは、時間あたりの採算性を指標として自部門の収支を管理し、その最大化を目指します。この仕組みの最大の目的は、経営状況を現場レベルまで「見える化」し、すべての従業員がコストや利益に対する当事者意識、すなわち「経営者意識」を持って仕事に取り組む環境を醸成することにあります。
First Mold社の事例から見る現場の変化
First Mold社の事例では、「金型製造アメーバ」という単位で現場が運営されています。これは、製造部門というコストセンターとして捉えられがちな組織が、一つの独立した事業体として損益に責任を持つことを意味します。リーダーが自部門の売上について語っていること自体が、アメーバ経営が機能している証左です。おそらく、部門間の取引にも社内売買の考え方が導入され、後工程や営業部門に対して自部門の仕事の価値を価格として認識する仕組みが構築されていると推察されます。これにより、現場は単に「良いものを早く安く作る」だけでなく、「いかにして部門の収益を上げるか」という視点を持つようになります。
なぜ金型事業でアメーバ経営が有効なのか
金型事業は、案件ごとの仕様が異なる個別受注生産が主体であり、見積もり精度や工程管理、原価管理の巧拙が収益を大きく左右します。アメーバ経営を導入することで、案件ごと、あるいはチームごとの採算が明確になり、どの仕事がどれだけの利益を生んでいるのかを現場が直接把握できるようになります。これにより、不採算案件の削減や、高付加価値な加工への注力といった、より収益性を意識した現場改善が進みやすくなります。また、現場に権限が委譲されることで、顧客からの急な仕様変更や納期短縮の要請にも、迅速かつ柔軟な意思決定で対応できるという利点も考えられます。
日本の製造業への示唆
この事例は、日本の製造業、特に中小企業にとっていくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 部門別採算管理の徹底と「見える化」の再評価:
工場全体の原価管理は行っていても、部署ごと、あるいはラインごとの正確な採算まで把握できている企業は多くないかもしれません。アメーバ経営の考え方を取り入れ、現場が納得できる形で収支を「見える化」することは、コスト意識の向上と主体的な改善活動を促す第一歩となります。
2. 現場リーダーへの権限移譲と経営人材の育成:
現場のリーダーに採算管理を含めた権限を委譲することは、彼らに経営的視点を与える絶好の機会です。日々の業務を通じて損益を意識することで、将来の工場長や経営幹部となりうる人材が現場から育っていく土壌が生まれます。
3. 日本発の経営手法の普遍性:
かつて日本の製造業の強みとされた経営手法が、国や文化を超えて有効であることをこの事例は示しています。自社の持つ優れた仕組みや考え方を、海外拠点での競争力強化に応用していく視点も、グローバル化が進む現代においては不可欠と言えるでしょう。
組織のサイロ化や現場の指示待ち体質といった課題に直面している企業にとって、従業員の当事者意識を引き出すアメーバ経営の思想は、改めて検討する価値のあるものかもしれません。


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