製品のアイデアを、いかに効率よく、高品質かつ低コストで量産に繋げるか。この製造業における根源的な課題に応えるため、「製造容易性設計(Design for Manufacturing: DFM)」の重要性が、特にロボットのような複雑な製品開発の現場で再認識されています。本稿では、DFMの基本概念を整理し、日本の製造業が取り組むべき実践的なポイントを解説します。
製造容易性設計(DFM)とは何か
製造容易性設計(DFM)とは、製品の設計開発の初期段階から、製造のしやすさやコスト、品質、組み立ての容易さなどを総合的に考慮し、設計仕様に織り込んでいくアプローチを指します。設計が完了してから製造部門が量産化の検討を始めるのではなく、企画・設計の源流段階から製造現場の知見を反映させることで、後工程での大幅な手戻りやコスト増を防ぐことが目的です。日本の製造業では、古くから「源流管理」という言葉で同様の考え方が重視されてきましたが、DFMはそれをより体系化したものと捉えることができます。
なぜ今、DFMが再び注目されるのか
DFMの考え方自体は新しいものではありませんが、近年の事業環境の変化がその重要性を一層高めています。特に、多機能化・複雑化が進むロボットやエレクトロニクス製品においては、構成部品点数が多く、製造プロセスも多岐にわたります。こうした製品で設計段階のわずかな見落としが、後の量産段階で膨大なコスト増や品質問題を引き起こすリスクを孕んでいます。また、市場投入までの時間短縮(Time to Market)が競争力を左右する現代において、設計から量産立ち上げまでをスムーズに行うことは経営上の至上命題です。設計と製造の分業が進み、両部門の連携が希薄になりがちな組織においてこそ、意識的なDFMの実践が不可欠となります。
DFMがもたらす具体的な効果
DFMを徹底することで、企業は多岐にわたるメリットを享受できます。最も直接的な効果は製造コストの削減です。例えば、部品点数の削減、標準部品の採用による調達コストの低減、加工しやすい形状への変更による加工費の削減、組み立て手順を簡略化することによる組立工数の削減などが挙げられます。品質面では、製造工程でのばらつきを抑制する設計により、不良率の低減と品質の安定化が期待できます。さらに、量産試作段階での問題発生を未然に防ぐことで、開発の手戻りが減り、結果として開発期間全体の短縮にも繋がります。
実践における課題とポイント
多くの企業でDFMの重要性は認識されていますが、その実践には壁が伴います。最も大きな課題は、設計部門と製造部門(生産技術、製造、品質管理など)との間に存在する組織的・文化的な壁です。設計者は性能や機能の実現を優先し、製造者は生産効率を優先するため、時に利害が対立することもあります。この壁を乗り越えるためには、開発の超初期段階から関係部門の担当者が一堂に会して仕様を検討する「コンカレント・エンジニアリング」の体制を構築することが有効です。また、過去の製品で発生した製造上の問題点や改善ノウハウを形式知化し、設計者がいつでも参照できるデータベースやチェックリストとして整備することも、組織的なDFMのレベル向上に貢献します。
日本の製造業への示唆
DFMは、ともすれば欧米発の新しい経営手法のように聞こえるかもしれませんが、その本質は、日本の製造業が本来得意としてきた「すり合わせ」の技術や、現場の知恵を尊重する文化と深く結びついています。しかし、かつての強みも、組織の縦割りが進み、ベテランの経験が若手に伝承されにくくなった現代においては、意識的に仕組みとして再構築しなければ機能しなくなっています。
これからの製造業経営においては、DFMを単なる技術手法として捉えるのではなく、部門間の連携を促す組織設計や評価制度の見直しといった、より高い視点からの取り組みが求められます。設計者が製造現場の実情を学び、製造技術者が設計意図を深く理解する。そうした双方向のコミュニケーションを活性化させるための投資こそが、企業の競争力を源流から強化する鍵となるでしょう。3D CADや各種シミュレーションツールといったデジタル技術の活用は、この部門間連携を円滑にし、DFMをより高いレベルで実現するための強力な武器となります。


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