米アッヴィ、医薬品原薬の新工場に約590億円を投資 – サプライチェーン国内回帰の動きが加速

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大手製薬会社アッヴィが、米国内に大規模な生産拠点を新設することを発表しました。この動きは、パンデミック以降に重要性が増しているサプライチェーンの強靭化と、製造業の国内回帰という大きな潮流を反映したものです。

医薬品有効成分(API)の内製化に向けた大規模投資

米国の製薬大手AbbVie(アッヴィ)は、イリノイ州ノースシカゴの拠点に3億8,000万ドル(約590億円)を投じ、新たに2つの医薬品有効成分(API: Active Pharmaceutical Ingredient)製造施設を建設すると発表しました。この投資により、約300人の新規雇用が創出される見込みです。新施設は、同社が開発を進める新薬のパイプラインを支える重要な生産拠点となることが期待されています。

医薬品有効成分(API)とは、その名の通り、医薬品の効能を発揮する中心的な物質です。従来、多くの製薬会社は、コスト効率を理由にAPIの製造を海外、特に中国やインドの委託製造企業(CMO)に依存する傾向がありました。しかし、近年の地政学的な緊張の高まりや、新型コロナウイルスのパンデミックによる供給網の混乱を経験し、重要物資の国内生産能力を確保する動きが世界的に活発化しています。アッヴィの今回の投資は、まさにこの流れを汲んだ戦略的な判断と見ることができます。

サプライチェーン強靭化という経営課題

この決定の背景には、単なる生産能力の増強だけでなく、サプライチェーンの強靭化という明確な経営上の狙いがあります。重要部品や原材料を海外の特定地域に依存することは、輸送の遅延や停止、国際情勢の変化といったリスクを常に抱えることになります。特に医薬品のように人の生命に直結する製品においては、安定供給の責任は極めて重いものです。

自社で管理できる国内拠点で基幹となるAPIを製造することは、これらのリスクを低減し、研究開発から最終製品の市場投入まで、より一貫性のある管理体制を構築することに繋がります。日本の製造業においても、半導体材料や精密部品など、特定の海外サプライヤーへの依存が経営上の脆弱性となっている例は少なくありません。今回の事例は、製造拠点の地理的な分散や内製化の重要性を改めて示唆しています。

製造業の国内回帰と人材確保

アッヴィの投資は、米国政府が進める製造業の国内回帰(リショアリング)政策とも連動しています。政府による補助金や税制優遇措置が、企業の国内投資を後押ししている側面もあるでしょう。これは、経済安全保障の観点から、基幹産業のサプライチェーンを国内に確保しようという国家的な戦略の一環です。

一方で、大規模な工場を新設する際には、高度なスキルを持つ技術者やオペレーターの確保が大きな課題となります。特にAPI製造のような専門性の高い分野では、人材の育成が工場の安定稼働の鍵を握ります。これは、労働人口の減少という構造的な課題を抱える日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。自動化やデジタル化による省人化と並行して、いかにして次世代を担うものづくりの人材を確保し、育てていくか。国内投資を検討する上で避けては通れないテーマです。

日本の製造業への示唆

アッヴィの今回の投資は、米国の製薬業界における一つの事例ですが、日本の製造業に携わる我々にとっても多くの示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。

1. サプライチェーンリスクの再評価と内製化の検討:
自社の製品に使われる基幹部品や重要原材料の調達網を改めて点検し、地政学リスクや災害リスクを評価することが不可欠です。すべての内製化は現実的でなくとも、代替調達先の確保や、特に重要な部分における国内生産への切り替えは、事業継続計画(BCP)の観点から重要な経営判断となります。

2. 将来を見据えた戦略的設備投資:
今回の投資は、将来上市される新製品を見据えた先行投資です。目先のコスト効率だけでなく、5年後、10年後を見据えた製品ポートフォリオの変化に対応できるような、柔軟性の高い生産拠点の構築が求められます。特に、技術革新の速い分野では、新技術に対応できる設備への戦略的な投資が競争力を左右します。

3. 国内投資と人材育成の連動:
国内に生産拠点を新設・増強する際には、必ず人材確保の問題が伴います。最新鋭の設備を導入しても、それを使いこなし、維持管理できる人材がいなければ宝の持ち腐れです。設備投資の計画と同時に、地域社会や教育機関と連携した人材育成プログラムや、従業員のリスキリング(学び直し)への投資を一体で進める視点が重要になります。

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