ベトナムの農村地域におけるカカオ生産の取り組みは、単なる農業振興に留まらず、現代のグローバルサプライチェーンにおける重要な要件を我々に示唆しています。本記事では、輸出市場への参入を目指す上で不可欠となる「トレーサビリティ」の確保という視点から、日本の製造業が学ぶべき点を解説します。
ベトナム農産品の新たな挑戦
ベトナム中部の高原地帯であるGia Lai省Pờ Tó地区では、カカオ栽培が地域の経済的希望となりつつあると報じられています。この取り組みが注目されるのは、単に作物を生産するだけでなく、当初からグローバル市場、特に輸出を視野に入れた生産体制の構築を目指している点にあります。現地のカカオ製品メーカーであるTrong Duc社は、その中心的な役割を担っているようです。
輸出市場への「入場券」としてのトレーサビリティ
記事の中で特に注目すべきは、「生産管理(production management)」と「トレーサビリティ(traceability)の確保」が、輸出市場へ参入する際の鍵となる要因(a key factor)として明確に言及されている点です。これは、今日の国際的な取引において、製品の品質や安全性だけでなく、その生産履歴の透明性がいかに重視されているかを物語っています。
我々日本の製造業、特に食品や化粧品、化学品など、天然由来の原料を扱う分野においては、トレーサビリティはもはや品質管理の基本要件です。しかし、その要求がサプライチェーンを遡り、原材料である農産物の生産段階にまで強く及んでいるという現実は、改めて認識しておく必要があります。消費者はもちろん、輸入国の規制当局も、製品が「いつ、どこで、誰が、どのようにして作ったのか」という情報を求めています。この要求に応えられないサプライヤーは、国際市場から締め出されるリスクに直面します。
サプライチェーン上流における生産管理の高度化
ベトナムの事例は、農産物の生産現場が、もはや単なる「畑」ではなく、管理された一種の「屋外工場」として機能し始めていることを示唆しています。栽培から収穫、一次加工に至る各工程でデータが記録され、管理されることで、最終製品に至るまでの履歴を追跡可能にする。これは、原材料の品質安定化やリスク管理の観点から、調達を行うメーカー側にとっても非常に有益な動きです。サプライヤーがこうした体制を構築していることは、調達先を選定する上で極めて重要な評価項目となるでしょう。
これまで、開発途上国からの原材料調達においては、品質のばらつきや安定供給が課題となるケースが少なくありませんでした。しかし、現地企業が主体となって生産管理とトレーサビリティの仕組みを導入する動きは、サプライチェーン全体の強靭化と高度化に繋がる可能性を秘めています。
日本の製造業への示唆
今回のベトナムの事例から、日本の製造業、特にグローバルなサプライチェーンに関わる企業は、以下の点を再確認すべきでしょう。
1. 調達戦略におけるトレーサビリティの明確な位置づけ
サプライヤー選定や評価の基準として、トレーサビリティシステムの有無やそのレベルを明確に組み込むことが不可欠です。単に品質規格を満たすだけでなく、その品質がどのようなプロセスを経て保証されているのか、その履歴を追跡できるかどうかが、サプライヤーの信頼性を測る上で重要な指標となります。
2. サプライチェーン全体の透明性確保
自社の工場内だけでなく、原材料の生産地まで遡ったサプライチェーン全体の透明性を確保する取り組みが、企業の競争力を左右します。これは、品質問題や異物混入といったリスクへの迅速な対応を可能にするだけでなく、近年重視されるESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも、企業の社会的責任を果たす上で必須の要件と言えます。
3. 新興国サプライヤーの能力変化への注視
ベトナムの事例が示すように、新興国の生産者もまた、グローバル市場の要求に応えるべく、生産管理レベルを急速に向上させています。従来のイメージに囚われず、彼らの能力を正しく評価し、信頼できるパートナーとして連携していく視点が、今後の安定的な原材料調達において重要になるでしょう。


コメント