海外医薬品大手の設備投資と事業再編にみる、生産戦略の最新動向

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米国の製薬大手AbbVieによる原薬(API)製造への大型投資、そしてGSKと台湾Bora Pharmaceuticals間の工場売買を伴う製造委託契約。これらの動きは、グローバルな製造業における生産能力とサプライチェーンの戦略的な再編が加速していることを示唆しています。

AbbVie、原薬(API)製造能力増強に約3.8億ドルの大型投資

米国の製薬大手AbbVie社は、アイルランドの拠点に3億8000万ドル(約500億円規模)を投じ、新たに2つの原薬(API: Active Pharmaceutical Ingredient)製造施設を建設することを発表しました。これは、同社の既存の製造能力を増強し、将来的な新薬の需要拡大に備えるための戦略的投資と位置づけられています。

原薬(API)は医薬品の有効成分そのものであり、サプライチェーンの最も上流に位置する基幹物質です。この領域への大型投資は、単なる生産能力の増強に留まらず、重要物質の供給安定性を自社で確保し、サプライチェーンを強靭化しようという意図がうかがえます。日本の製造業においても、基幹部品や独自性の高い材料の内製化と安定供給体制の構築は、事業継続性の観点から極めて重要な経営課題と言えるでしょう。

GSKとBoraの契約に見る、生産拠点の戦略的再編

一方で、英国の製薬大手GSK(グラクソ・スミスクライン)社は、カナダ・ミシサガにある自社工場を、台湾のCDMO(医薬品開発製造受託機関)であるBora Pharmaceuticals社に売却しました。これに併せ、Bora社は今後最低5年間にわたり、同工場でGSK向けの50以上の製品を製造・供給する契約を締結しています。

この動きは、大手製薬企業が自社の経営資源を研究開発や販売といったコア業務に集中させるため、生産機能の一部を外部の専門企業に委託する「ファブライト化」の流れを象徴しています。GSKは自社の生産ポートフォリオを見直し、より効率的な体制へと移行する判断を下したと考えられます。また、単に工場を閉鎖するのではなく、雇用と製品供給を維持したまま専門企業へ事業を譲渡するという手法は、事業再編における現実的かつ社会的な影響を考慮した選択肢として注目されます。日本の製造業においても、事業ポートフォリオの見直しや工場の統廃合が課題となる中、こうした「戦略的アウトソーシング」や「カーブアウト(事業切り出し)」は、有効な選択肢の一つとなり得ます。

日本の製造業への示唆

今回報じられた2社の事例は対照的に見えますが、いずれも自社の強みと市場環境を見極めた上で、生産体制を最適化しようとする戦略的な動きです。ここから、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。

1. 生産能力の最適化と戦略的投資
AbbVieの事例が示すように、将来の需要を見越し、自社の競争力の源泉となる領域(ここでは原薬)へは、大胆な先行投資が不可欠です。自社のどの技術・製品がそれに該当するのかを明確にし、計画的な設備投資を実行していく必要があります。

2. 「内製」と「外部活用」の再評価
全ての生産工程を自社で抱える時代は終わりつつあります。AbbVieのようにサプライチェーンの根幹は内製化で固める一方、GSKのように汎用的な工程や、より高い専門性・効率性を持つ外部パートナーを活用する判断も重要です。自社の生産プロセスを分解し、「make or buy(内製か購入か)」の判断を定期的に見直すことが、筋肉質な生産体制の構築に繋がります。

3. 事業ポートフォリオと生産拠点の見直し
GSKの工場売却は、企業の成長戦略に合わせた生産拠点の見直しの好例です。自社の強みが発揮できない、あるいは投資対効果が低いと判断される生産機能については、売却や外部委託といった選択肢を柔軟に検討すべき時期に来ています。それは単なるコスト削減策ではなく、経営資源を成長領域へ再配分するための前向きな戦略的判断と言えるでしょう。

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