一見、製造業とは無縁に思えるアニメーション映画の制作現場。しかし、その複雑なプロジェクトを支える生産管理の手法には、日本の製造業が学ぶべき多くのヒントが隠されています。本記事では、ディズニーの最新作を事例に、部門横断的なプロジェクト管理の重要性を解説します。
巨大プロジェクトを支えるデジタル生産管理ツール
先日、ディズニーの最新アニメーション映画『ズートピア2』の制作舞台裏の一部が公開されました。その中でプロデューサーが語ったのは、制作プロセスにおける生産管理ツールの重要性です。数百人ものアーティストや技術者が関わる複雑な制作作業を連携させるために、オートデスク社の「Flow Production Tracking」というツールが中核的な役割を担っているといいます。
これは、キャラクターデザイン、背景美術、CGモデリング、アニメーション、レンダリング(描画処理)といった無数の工程と、そこから生み出される膨大なデジタル資産の進捗を、関係者全員がリアルタイムで共有・管理するための仕組みです。各工程の担当者がいつ、何をすべきか、そしてレビューや承認の状況はどうなっているのかが一目でわかるようになっています。
アニメーション制作と製造業の共通点
映画制作と聞くと、職人的なクリエイティビティの世界を想像しがちですが、その実態は極めて体系的なプロジェクト管理が求められる「ものづくり」の現場です。企画、設計(キャラクター・世界観設定)、部品製作(CGモデル作成)、組立(アニメーション)、仕上げ(エフェクト・編集)、そして厳しい納期と予算管理。この一連のプロセスは、製品開発から量産に至る製造業のバリューチェーンと、構造的に多くの共通点を持っています。
それぞれ専門性を持つ多くの部署が連携し、細かな仕様変更に対応しながら、最終的な一つの製品(映画)を完成させていく。一つの工程の遅れや情報の伝達ミスが、後工程に大きな影響を及ぼすというリスクも全く同じです。クリエイティブな産業であっても、その根幹を支えているのは、品質、コスト、納期(QCD)を担保するための堅実な生産管理なのです。
製造現場における情報連携の課題
ここで日本の製造現場を顧みると、設計、生産技術、製造、品質管理、購買といった部門間で、情報が分断されているケースは少なくありません。設計変更の情報が製造現場の末端まで正確に伝わっていなかったり、試作品の評価結果が設計部門にフィードバックされるのに時間がかかったりすることは、多くの現場が経験している課題でしょう。
こうした情報のサイロ化は、手戻りや納期の遅延、ひいては品質問題の根本原因となり、目に見えないコストを発生させます。ディズニーのような巨大プロジェクトが、専門の生産管理ツールを導入する背景には、こうした課題をデジタル技術で解決するという、製造業と全く共通の目的意識があると考えられます。
日本の製造業への示唆
今回の事例は、日本の製造業に対していくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 進捗の「見える化」と一元管理
部署ごとに異なるExcelファイルや日報で管理されているプロジェクトの進捗状況を、専用の管理ツールなどで一元化し、関係者全員がリアルタイムで同じ情報を共有することが不可欠です。これにより、問題の早期発見と迅速な意思決定が可能になります。
2. 部門横断のコミュニケーション基盤の構築
メールや会議だけに頼るのではなく、共通のプラットフォーム上で課題のやり取りやレビュー、承認プロセスを行うことで、コミュニケーションの齟齬や抜け漏れを防ぎ、変更履歴を確実に残すことができます。これは特に、多くのサプライヤーを巻き込んだ製品開発プロジェクトにおいて大きな効果を発揮します。
3. 異業種から学ぶ柔軟な発想
製造業の枠を超えて、他業種の優れた管理手法に目を向けることも大切です。デジタル技術を駆使したクリエイティブ産業のプロジェクト管理は、今後の多品種少量生産や、より複雑化・短期化する製品開発において、多くのヒントを与えてくれるはずです。


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