グローバルなサプライチェーンが複雑化する中、生産拠点の最適化は単なるコスト削減の問題ではなくなりました。中国・吉利汽車傘下のVolvoが、米国の関税問題を「関税還付制度」を用いて乗り越えた事例は、現代の製造業が直面する新たな現実を示唆しています。
はじめに:生産戦略を左右する貿易政策
かつて製造業の海外拠点選定は、主に人件費や物流コスト、部品調達の容易さといった観点から行われてきました。しかし、米中間の貿易摩擦をはじめとする地政学的な変化により、関税や貿易協定といった通商上の要因が、企業の生産戦略そのものを左右する重要な変数となっています。最近、自動車業界で注目されたFordと吉利汽車(Geely)の協議の背景にも、こうした「貿易主導型の製造業」という新たな潮流が存在します。
Volvoの事例:中国生産と米国向け輸出の課題
この潮流を象徴するのが、中国の吉利汽車傘下にあるスウェーデンの自動車メーカー、Volvoの事例です。Volvoは、中国に大規模な生産拠点を設け、そこから米国市場へ車両を輸出する戦略を推進しました。これは、中国の製造能力を活用し、グローバル市場での競争力を高めるための合理的な判断でした。
しかし、この戦略は米国の高関税という大きな壁に直面します。中国で生産された製品に対して課される関税は、車両の価格競争力を著しく損なう可能性がありました。生産効率を追求した結果、貿易政策によってその優位性が失われかねないという、現代のグローバル製造業が抱える典型的な課題と言えるでしょう。
解決策としての「関税還付(Duty Drawback)」制度
この課題に対し、Volvoは米国の「Duty Drawback(デューティー・ドローバック)」、すなわち関税還付制度を活用することで活路を見出しました。これは、輸入した原材料や部品を用いて米国内で製品を製造し、それを最終的に米国外へ再輸出する場合に、輸入時に支払った関税の一部または全部が還付される制度です。
Volvoのケースでは、世界中から調達した部品を中国で組み立てて完成車とし、米国へ輸出しています。このサプライチェーンにおいて、関税還付制度を戦略的に利用することで、関税コストを相殺し、価格競争力を維持することが可能になったと考えられます。これは、単に良い製品を安く作るだけでなく、複雑な通商ルールを深く理解し、それを自社のサプライチェーン戦略に組み込むことの重要性を示しています。
貿易主導型(Trade-Driven)の製造業へ
Volvoの事例は、製造業が新たな時代に入ったことを明確に示しています。それは、生産技術や品質管理といった従来の強みに加え、国際的な通商ルールをいかに戦略的に活用するかが企業の盛衰を分ける「貿易主導型(Trade-Driven)」の時代です。FTA(自由貿易協定)や各種関税制度を前提として、どこで部品を調達し、どこで組み立て、どの市場へ供給するのか。サプライチェーン全体を、通商という視点から最適化する能力が、これからの製造業には不可欠となります。
日本の製造業への示唆
この動きは、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。今回の事例から、私たちは以下の点を再認識し、自社の戦略を見直す必要があります。
1. サプライチェーンの再評価と強靭化
米中対立や各種FTA(TPP、RCEP等)の発効といった貿易環境の変化を踏まえ、自社のサプライチェーンが依然として最適かどうかを定期的に評価する必要があります。特定の国・地域への過度な依存は、ある日突然、関税という形で大きなリスクに変わり得ます。生産拠点の多角化や、リスク分散の観点からの見直しが急務です。
2. 通商ルールの知識習得と組織横断的な連携
関税制度や原産地規則といった通商ルールは、もはや法務や経理部門だけの専門知識ではありません。生産管理、調達、サプライチェーンマネジメントといった現場に近い部門の担当者も、基本的な知識を身につけ、専門部署と密に連携しながら、日々の業務に活かしていく姿勢が求められます。
3. 制度の戦略的活用
関税は単なるコストではなく、戦略的に管理・活用すべき経営資源です。関税還付制度や、FTAの特恵関税などを積極的に活用することで、コスト競争力を高めることが可能です。自社の事業に適用できる制度がないか、改めて調査し、活用を検討する価値は大きいでしょう。
ものづくりの現場力に加え、国際的なルールを読み解き戦略に活かす知力。その両輪を駆動させることが、不確実な時代を乗り越えるための鍵となるでしょう。


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