一見、製造業とは無関係に思えるブロードウェイミュージカルの製作現場。しかし、その裏側で機能する「プロダション・マネジメント」の仕組みには、我々の工場運営やプロジェクト管理に通じる普遍的な要諦が隠されています。本稿では、異業種の事例から、製造業における生産管理のあり方を再考します。
異業種に見る「プロダクション・マネジメント」の姿
先日、ある海外メディアでブロードウェイミュージカルの新作に関する記事が掲載されました。その中で、製作体制に「Juniper Street Productions」という会社が「プロダクション・マネジメント(Production Management)」として名を連ねていました。エンターテインメントの世界におけるこの役割は、我々製造業の言葉で言えば、まさに「生産管理」や「製造プロジェクトマネジメント」そのものと言えるでしょう。
舞台製作は、脚本、音楽、美術、照明、音響、そして俳優のキャスティングといった多岐にわたる専門分野の集合体です。プロダクション・マネジメントの役割は、これらの個別の要素を、定められた予算とスケジュールの中で統合し、初日という絶対的な納期に向けて、一つの完成された作品へとまとめ上げることです。これは、設計、資材調達、工程設計、製造、品質保証といった各部門を束ね、新製品の量産立ち上げを成功させる我々の業務と、本質的に何ら変わりありません。
舞台製作と製造業の共通点と相違点
舞台製作のプロセスを製造業の視点で分解してみると、興味深い共通点が見えてきます。
- キャスティング: 適切なスキルを持つ人材(俳優、技術者)の選定・配置。これは、プロジェクトチームの編成や、適切なサプライヤーの選定に相当します。
- 舞台装置の設計・製作: 製品設計と生産設備の設計・導入プロセスに他なりません。
- 稽古(リハーサル): 製造ラインでの試作や量産試行、作業者のトレーニングに当たります。問題点を洗い出し、本番(量産)に向けて完成度を高めていく重要な期間です。
- 初日(オープニングナイト): 製品の市場投入、量産開始の日にあたります。ここでの失敗は許されず、完璧な品質が求められます。
一方で、大きな相違点は、その「一回性」と「再現性」にあります。製造業が同一品質の製品を、効率的に繰り返し生産することを目指すのに対し、舞台は毎公演が「ライブ」であり、微妙な変化を含みながらも一定の品質を維持し続けるという、特有の難しさがあります。しかし、この「毎回の公演を初回同様の品質で届ける」という思想は、製造業における安定した品質管理の重要性を改めて我々に教えてくれます。
プロジェクトとして生産を捉え直す
ブロードウェイのプロダクション・マネジメントが示唆するのは、生産活動を単なるルーチンワークとしてではなく、一つの「プロジェクト」として捉える視点の重要性です。特に、新製品の立ち上げや、大幅な工程変更、工場の新設といった場面では、この考え方が極めて有効です。
多様な専門家(部門)を統括し、目標(品質・コスト・納期)を共有させ、課題をリアルタイムで解決しながら全体を前に進めていく。その司令塔としての役割は、まさに工場長や生産技術のリーダーに求められるものです。各部門が部分最適に陥ることなく、作品全体の成功という「全体最適」を目指す姿勢は、部門間の壁に悩まされがちな日本の製造現場にとって、学ぶべき点が多いと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、日本の製造業が改めて認識すべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. プロジェクトマネジメント視点の強化
日々の生産管理に加えて、特に新製品の立ち上げや大規模な改善活動においては、それを一つの「プロジェクト」と定義し、専門のマネージャーを任命することが有効です。納期、予算、品質目標を明確にし、部門横断的なチームを率いる権限を与えることで、計画の遂行力は格段に向上します。
2. 「全体最適」を司る司令塔の役割
工場長や生産管理部長は、各部門の専門性を尊重しつつも、常に全体のプロセスを見渡し、部門間の調整や意思決定を迅速に行う「司令塔」としての役割を強く意識する必要があります。個々の技術や効率だけでなく、最終的な製品・事業の成功に責任を持つという視点が不可欠です。
3. 「本番」から逆算した緻密な準備
舞台製作が「初日」という絶対的なゴールから逆算して、稽古や準備のスケジュールを組むように、我々も「量産開始日」から逆算した、より緻密で現実的な計画と準備が求められます。試作やトライの段階でどれだけ問題を洗い出し、潰し込めるかが、量産移行後の安定性を大きく左右します。


コメント