海外のデータセンター業界における人事情報から、製造業の中核をなす「生産管理」の専門知識が重視されている動向が見えてきました。一見、関連性が薄いように思えるこの事実は、物理的なインフラを大規模に運用する現代のIT産業が、製造業の工場運営から学ぶべき点が多いことを示唆しています。
データセンター業界の最新人事に見る、製造業との接点
先日、データセンター関連の専門誌が報じたグローバル企業の人事情報が、我々製造業に携わる者にとって興味深い示唆を与えています。Vertiv社やOracle社といったデータセンターインフラを支える企業の要職に就いた人物の経歴として、「生産管理(Production Management)」の学位が紹介されていたのです。
ITインフラの最前線であるデータセンター業界と、ものづくりの現場である生産管理。この二つが結びつく背景には、データセンターの運営形態が本質的に製造業の工場運営と多くの共通点を持っているという事実があります。
データセンターは「デジタル製品」を生産する工場
データセンターを、「計算能力」や「データストレージ」といった無形のデジタル製品を、24時間365日、安定的に生産し続ける巨大な工場と捉えることができます。そこでは、サーバー、ネットワーク機器、冷却装置、無停電電源装置といった数多くの物理的な「生産設備」が稼働しています。
これらの設備を効率的に管理し、安定稼働を維持することは、まさに工場の生産管理そのものです。例えば、サーバーラックの空きスペースは「仕掛在庫」に、電力効率の最適化は「原価低減」に、そしてシステムの稼働率や応答速度の維持は「品質管理(SLAの遵守)」に相当します。故障を未然に防ぐための予防保全や、需要予測に基づいた設備増強計画なども、製造業ではおなじみの管理手法と言えるでしょう。
なぜ今、生産管理の知見が求められるのか
特に近年、AIの急速な普及などを背景にデータセンターへの需要は爆発的に増加しており、その建設と運用の効率化が喫緊の課題となっています。建設プロジェクトのリードタイム短縮、グローバルで統一された標準作業の確立、エネルギーコストの抑制、そして膨大な数のサーバーや部品を管理するサプライチェーンの強靭化など、解決すべき課題は山積しています。
これらの複雑な課題に対応するためには、リーン生産方式やTQC(総合的品質管理)、シックスシグマといった、製造業が長年かけて体系化してきた科学的な管理手法が極めて有効です。個々の技術者の経験や勘に頼るだけでなく、プロセス全体を最適化し、データに基づいて意思決定を行うという生産管理の思想が、データセンターという巨大で複雑なシステムの運営においても不可欠になっていると考えられます。
日本の製造業への示唆
今回の異業種からのニュースは、日本の製造業に対していくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 製造業ノウハウの普遍的な価値の再認識
私たちが日々、現場で実践している生産管理、品質管理、サプライチェーン管理といったノウハウは、自社の製品を作るためだけのものではありません。大規模な物理インフラを運用するあらゆる産業に応用可能な、普遍的で強力な武器となり得ます。自社のコアコンピタンスとして、その価値を再認識することが重要です。
2. 人材育成とキャリアパスの多様性
工場で培われた経験は、社内のDX推進やITインフラ管理といった部門でも大いに活かせる可能性があります。また、従業員のキャリアパスとして、異業種での活躍も視野に入れることで、新たな成長の機会を提供できるかもしれません。生産現場の知見を持つ人材は、今後ますます多様な分野で求められるでしょう。
3. 自社のデジタル化への応用
自社でサーバーやネットワークを運用する際も、それを一種の「生産設備」と捉え、工場運営の視点から管理することで、安定性や効率性を高められる可能性があります。「IT部門の仕事」と切り分けるのではなく、全社的な生産活動の一部として、現場の改善手法を取り入れてみることも有効なアプローチです。


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