米国のシューズメーカー、ニューバランスがメイン州での国内生産を強化しています。この動きは、単なる生産拠点の移管に留まらず、サプライチェーンの強靭化やブランド価値向上といった、より戦略的な意図を浮き彫りにします。本稿ではこの事例を基に、日本の製造業が国内生産の価値をいかに捉え直すべきかを考察します。
ニューバランスが示す「国内生産」への強い意志
米国の著名なスポーツシューズメーカーであるニューバランスが、メイン州の工場で新たな雇用を創出し、国内生産体制を強化していることが報じられました。同社は以前から「Made in USA」を掲げ、米国内に生産拠点を維持し続けてきた数少ない企業の一つとして知られています。今回の動きは、その姿勢をさらに明確にするものと言えるでしょう。
海外での生産が主流となったアパレル・フットウェア業界において、同社が国内生産にこだわり続ける背景には、単なるコスト論とは異なる経営哲学が存在すると考えられます。それは、製品の品質に対する責任、熟練した労働力の維持、そして「自国でつくること」がもたらすブランド価値への深い理解です。
なぜ今、国内生産が注目されるのか
近年、ニューバランスの事例に限らず、世界的に生産拠点を自国や近隣国へ回帰させる「リショアリング」や「ニアショアリング」の動きが注目されています。この背景には、いくつかの複合的な要因が存在します。
第一に、グローバル・サプライチェーンの脆弱性です。パンデミックや地政学的な緊張は、特定の国や地域に生産が集中することのリスクを露呈させました。長大なサプライチェーンは、リードタイムの長期化や輸送コストの増大、そして不測の事態による寸断といった課題を抱えています。
第二に、市場への迅速な対応の必要性です。消費者のニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短くなる中で、市場の近くで生産することは、需要変動への即応性や在庫最適化の観点から大きな利点となります。
そして第三に、無形資産の価値です。技術やノウハウの空洞化を防ぎ、国内の雇用を守り、そして「Made in Japan」に代表されるような、品質と信頼性の証としてのブランド価値を維持・向上させることは、長期的な企業競争力の源泉となります。
日本の現場視点からの考察
このニューバランスの事例は、日本の製造業にとっても示唆に富んでいます。長年のデフレと円高の局面で、多くの企業がコスト競争力を求めて生産拠点を海外へ移してきました。しかし、昨今の円安基調や国際情勢の変化は、国内生産の採算性を相対的に改善させています。
もちろん、国内回帰には、労働力不足という深刻な課題が伴います。特に中小の製造現場では、人手不足は喫緊の経営課題です。したがって、国内生産の価値を再評価する際には、自動化や省人化技術への投資を一体で検討することが不可欠となります。ロボットやIoT、AIといったデジタル技術を活用し、少ない人数でも高い生産性を維持できる「スマート工場」の実現が、国内生産を現実的な選択肢とするための鍵となるでしょう。
全てを国内に戻すという二元論ではなく、製品の特性やサプライチェーン全体のリスクを評価し、国内拠点と海外拠点の役割を再定義する「戦略的な拠点配置」が求められていると言えます。
日本の製造業への示唆
今回のニューバランスの事例から、日本の製造業が実務レベルで得るべき示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーンの再評価と最適化
パンデミックや地政学リスクを前提に、現在のサプライチェーンが抱える脆弱性を改めて評価すべきです。海外の単一拠点に依存する体制を見直し、国内拠点を活用したリスク分散や、リードタイム短縮の可能性を具体的に検討することが求められます。
2. 「Made in Japan」の価値の再定義
コスト効率だけでなく、「Made in Japan」がもたらす品質、信頼性、ブランドイメージといった付加価値を、経営戦略の中に明確に位置づけることが重要です。また、国内にマザー工場を置くことで、技術開発や人材育成の中核拠点としての機能を維持・強化する意義も大きいでしょう。
3. 生産性向上への継続的な投資
国内の人手不足は構造的な問題です。国内生産を維持・強化するためには、自動化、デジタル化への投資が不可欠となります。単なる設備導入に留まらず、現場の作業者が使いこなし、改善を続けられるような運用体制の構築が成功の鍵を握ります。
海外生産が最適解であった時代から、事業環境は大きく変化しています。コスト、品質、供給安定性、そしてブランド価値といった複数の軸で、自社にとって最適な生産体制とは何かを、今一度、原点に立ち返って見直す時期に来ているのではないでしょうか。


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