台湾の医薬品開発製造受託機関(CDMO)であるBora Pharmaceuticals社と、英国の大手製薬会社GSKが、5年間で2億5000万ドル規模の製造委託契約を更新しました。この動きは、大手企業が製造機能を外部の専門パートナーへ委託する近年の潮流を象徴しており、日本の製造業にとっても示唆に富む事例です。
台湾Bora社と英GSK、大型の製造委託契約を更新
台湾のBora Pharmaceuticals社は、英国の製薬大手であるGSK(グラクソ・スミスクライン)との間で、5年間にわたる戦略的な製造パートナーシップ契約を更新したことを発表しました。この契約は、今後のグローバル市場向けの製品供給に関するもので、その規模は2億5000万ドルに上ります。製薬業界において、専門性の高いCDMO(医薬品開発製造受託機関)へ製造を委託する動きは加速しており、今回の契約更新もその流れを汲むものと言えます。
契約の背景にある「工場売却とセットでの長期委託」
このパートナーシップの背景には、近年の製造業、特に製薬業界で顕著に見られる事業戦略があります。Bora社は2020年に、GSKがカナダのミシサガに保有していた工場を買収しました。その際、工場取得と同時に、同工場で生産されていた製品群について、GSKから最低5年間の製造供給契約を締結していました。今回の契約更新は、この初期契約が成功裏に履行され、両社の信頼関係が強固になったことの証左と言えるでしょう。
このような大手企業による工場(アセット)の売却と、売却先への長期的な製造委託という組み合わせは、経営資源を研究開発や販売といったコア業務に集中させたいと考える企業にとって、合理的な選択肢となっています。いわゆる「アセットライト(資産の軽量化)」経営の一環であり、固定費の削減、設備投資リスクの回避、そして外部の専門性を活用した効率的な生産体制の構築を可能にします。日本の製造業においても、自社工場の役割や保有のあり方を再検討する上で参考になる事例です。
単なる外注ではない「戦略的パートナーシップ」の重要性
今回の発表で「戦略的パートナーシップ」という言葉が使われている点も重要です。医薬品の製造においては、厳格な品質管理基準(GMP)の遵守、安定したサプライチェーンの維持、そして当局への各種申請・承認プロセスの連携が不可欠です。そのため、委託元と受託先の関係は、単なるコストベースの取引ではなく、技術、品質、法規制対応など、あらゆる面で緊密な連携が求められます。品質情報や生産計画の透明性を確保し、問題発生時には共同で迅速に対応できる体制がなければ、このような長期的な大型契約は成り立ちません。
これは、委託先を選定する際に、価格だけでなく、品質保証体制、技術力、そして長期的な視点で協力し合える企業文化を持っているかどうかを総合的に評価する必要があることを示唆しています。日本の製造業が持つ高い品質管理能力や現場での改善力は、このようなパートナーシップを構築する上で大きな強みとなり得ます。
日本の製造業への示唆
今回のGSKとBora社の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. 事業ポートフォリオと生産体制の最適化:
自社のコアコンピタンスは何かを改めて見極め、研究開発や新事業に経営資源を集中させる一方、汎用製品や成熟製品の生産は信頼できる外部パートナーへ委託するという「選択と集中」の重要性が増しています。自社ですべてを抱えるのではなく、外部の専門性を活用することで、より柔軟で強靭な事業構造を構築することが可能です。
2. 受託製造ビジネス(EMS/CDMO)の可能性:
高い技術力や品質管理能力を持つ企業にとっては、大手企業の製造パートナーとなることで事業を拡大する好機があります。特に日本では、独自の生産技術や「カイゼン」に代表される現場力を持つ企業が数多く存在します。こうした強みを活かし、特定の分野で専門性の高い受託製造サービスを提供することは、新たな成長戦略となり得ます。
3. サプライチェーンにおけるパートナーシップの深化:
サプライチェーンが複雑化・グローバル化する中で、安定供給と品質を維持するためには、取引先との関係をより強固なパートナーシップへと昇華させる必要があります。単なる発注者と受注者の関係を超え、情報を共有し、課題解決に共同で取り組む姿勢が、予期せぬ変化への対応力を高め、双方の競争力向上に繋がります。


コメント