アディティブマニュファクチャリング(AM)の領域で、AIと自動化技術の活用が本格化しつつあります。特に、これまで人手に頼ることが多かった見積もり作成や生産管理のプロセスを自動化する動きは、生産性向上に直結する重要なテーマです。本稿では、米国の受託製造サービス大手Protolabs社の事例を参考に、その実務的な意味合いと日本の製造業への示唆を探ります。
アディティブマニュファクチャリング(AM)における新たな課題
3Dプリンティングに代表されるアディティブマニュファクチャリング(AM)技術は、試作品開発の領域を越え、最終製品の少量生産やカスタム部品製造へとその用途を広げています。しかし、その普及に伴い、新たな課題も明らかになってきました。それは、多品種少量生産を効率的に管理するための、見積もり作成や生産計画策定といった業務の煩雑さです。
一つひとつの部品形状が異なるAMでは、3D CADデータをもとに製造可能性を判断し、材料費や造形時間からコストを算出して見積もりを作成する工程に、専門知識を持つ技術者の工数が大きく割かれてきました。また、複数の製造案件をどの装置に、どのような順序で割り振るかという生産スケジューリングも、稼働率と納期を両立させる上で極めて複雑な作業となります。
AIによる見積もり業務の自動化とその効果
こうした課題に対する一つの解として、AIを活用した業務の自動化が進んでいます。米国のProtolabs社が提供するオンラインサービスでは、顧客が3D CADデータをアップロードすると、AIが即座にデータを解析。製造可能性のフィードバック(DFM:Design for Manufacturability)とともに、複数の工法・材料での見積もりを自動で提示する仕組みが構築されています。
この仕組みは、単なる価格計算の自動化にとどまりません。AIが過去の膨大な製造データから学習することで、特定の形状が造形可能か、どの部分に応力集中や反りが発生しやすいかといった、これまで熟練技術者が経験則で判断していた領域まで踏み込んだ解析を瞬時に行います。これにより、顧客は設計の初期段階で製造性を織り込んだ手戻りのない設計が可能となり、開発リードタイムの短縮に繋がります。見積もりを待つ時間がなくなることで、意思決定のスピードも格段に向上するでしょう。
生産管理の高度化とスマートファクトリーへの展開
AIによる自動化は、見積もり工程だけでなく、その後の生産管理プロセスにも大きな影響を与えます。AIが見積もりと同時に生成した製造パラメータや予測造形時間といった情報は、そのまま生産計画システムへと連携されます。
多数の製造案件(ジョブ)と、使用可能な複数のAM装置の稼働状況をリアルタイムで把握し、材料の段取りや後処理工程なども考慮しながら、工場全体として最も効率的な生産スケジュールを自動で立案することが可能になります。これは、いわゆるスマートファクトリーの概念をAMの現場で具現化する動きと捉えることができます。属人的なスキルに依存しがちだった生産計画が、データに基づいた客観的で最適なものへと進化していく可能性を秘めています。
日本の製造業への示唆
今回の事例は、AMを積極的に活用する企業に限らず、日本の多くの製造業にとって重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
1. 間接業務の効率化と技術者の役割変化
見積もりや生産計画といった間接業務・管理業務は、企業の競争力を左右する重要な機能ですが、一方で定型的な側面も持ち合わせています。こうした業務をAIや自動化ツールに任せることで、技術者はより付加価値の高い、設計の高度化や新規工法の開発、あるいは顧客との技術的な対話といった創造的な業務に集中できるようになります。
2. 設計と製造のフロントローディング
設計の初期段階で、AIから製造性に関する即時のフィードバックを得られることは、開発プロセス全体の手戻りをなくし、品質とコストの作り込みを前倒し(フロントローディング)することに繋がります。これは、日本の製造業が強みとしてきた「すり合わせ」のプロセスを、デジタルデータ上で高速に、かつ効率的に行うことに他なりません。
3. 属人性の排除と技能伝承への貢献
熟練者の経験や勘に頼っていた判断基準をAIに学習させることは、業務の標準化と属人性の排除に繋がります。これは、多くの現場が抱える技能伝承の課題に対する、一つの有効なアプローチとなり得ます。暗黙知を形式知化し、組織全体の資産として活用する基盤が整います。
4. 外部サービスの活用によるスモールスタート
自社で大規模なAIシステムを開発することは容易ではありません。しかし、Protolabs社のような外部の受託製造サービスを利用することで、まずはAIを活用した製造プロセスの利便性や効果を実体験することができます。こうした外部サービスをうまく活用しながら、自社にとって最適なデジタル化・自動化のあり方を模索していくことが、現実的な第一歩となるでしょう。


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