生産拠点を移しても、なぜ中国依存から抜け出せないのか? ― サプライチェーンの構造的課題

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米中対立などを背景に「脱中国」を進める動きが活発化していますが、最終組立地を移転するだけでは、部品供給網の中国依存という本質的な課題は解決しないという指摘があります。本記事では、多国籍企業が直面するサプライチェーンの現実と、日本の製造業が取るべき対応について解説します。

見せかけの「脱中国」とサプライチェーンの現実

地政学リスクの高まりを受け、多くのグローバル企業が生産拠点を中国から米国や東南アジアなどへ移管する動きを加速させています。しかし、米国の研究機関の報告によれば、特に東アジアの先端製造業において、最終組立の場所は変わっても、その心臓部である部品や中間財の供給網(バリューチェーン)は依然として中国に深く根ざしたままである実態が明らかになりました。これは、生産拠点の移管が必ずしもサプライチェーンリスクの低減に直結しないという、重要な事実を示唆しています。

なぜ部品供給網は中国に留まるのか

多くの企業が生産移管後も中国からの部品調達を続ける背景には、いくつかの構造的な理由があります。第一に、長年にわたって中国で形成された、高度に専門化されたサプライヤーの集積です。特定の部品や加工技術において、中国サプライヤーが持つコスト競争力、品質、そして納期の柔軟性は、他国で代替を見つけるのが極めて困難な場合があります。特に、金型や精密加工、電子部品といった領域では、この傾向が顕著です。

日本企業にとっても、これは他人事ではありません。長年の取引を通じて品質指導や技術供与を行い、自社の要求水準に応えられるまでに育て上げた中国の協力会社を、すぐさま切り替えることは現実的ではないでしょう。品質保証や生産管理のプロセスをゼロから再構築するには、莫大な時間とコストを要するためです。

「最終組立」の移管がもたらす新たな複雑性

生産拠点を米国やメキシコ、東南アジアなどに移した場合、結局は多くの基幹部品を中国から輸入し、現地で組み立てるという「ノックダウン生産」に近い形態に陥りがちです。これにより、リードタイムはむしろ長くなり、輸送コストも増加します。また、部品供給が中国の港湾状況や輸出規制に左右されるというリスク構造は変わらないまま、サプライチェーン全体の管理はかえって複雑化する可能性も指摘されています。

これは、かつて日本企業が推進した「チャイナ・プラスワン」戦略でも経験した課題です。ASEAN地域に工場を新設しても、現地の裾野産業が未熟なため、結局は重要部品を中国や日本から供給せざるを得ず、期待したほどのコスト削減やリスク分散に繋がらなかったケースも少なくありませんでした。

日本の製造業への示唆

この現実は、日本の製造業に対して、サプライチェーン戦略の再考を迫るものです。短期的な拠点移管だけでなく、より長期的かつ構造的な視点での対応が求められます。

1. サプライチェーンの徹底的な可視化
まずは自社のサプライチェーンを、ティア2、ティア3(2次、3次サプライヤー)まで遡って正確に把握することが不可欠です。どの部品が、どの国の、どの企業に依存しているのかをマップ化し、「隠れた依存」を洗い出す必要があります。これにより、真のリスクがどこに潜んでいるのかを定量的に評価できます。

2. 段階的かつ戦略的な調達先の多様化
「脱中国」を性急に進めるのではなく、重要度や代替可能性に応じて、段階的に調達先の複線化を進める現実的なアプローチが求められます。特にボトルネックとなり得る重要部品については、国内やASEAN地域での代替サプライヤー育成も視野に入れるべきでしょう。

3. 設計思想からのアプローチ(VAVE)
特定地域のサプライヤーにしか製造できない特殊な部品への依存を減らすため、設計段階からの見直しも有効です。より標準的で汎用性の高い部品を採用したり、調達先の地理的制約を受けにくい材料に変更したりするVAVE(価値分析・価値工学)活動は、サプライチェーンの強靭化に直接的に貢献します。

4. 国内生産回帰と自動化の連携
一部の重要製品や工程については、国内への生産回帰も現実的な選択肢となります。ただし、その際はコスト競争力を確保するため、徹底した自動化・省人化への投資が前提となります。スマートファクトリー技術を活用し、高い生産性を実現することが成功の鍵です。

最終組立地を移すという表面的な対応に留まらず、自社の製品を構成するバリューチェーン全体の構造を見つめ直し、粘り強く再構築していくことが、これからの不確実な時代を乗り越える上で不可欠と言えるでしょう。

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