英国の製造業が、高止まりするエネルギー価格によって深刻な影響を受けているとの報告がなされました。国際競争力の低下や、将来への投資の停滞を招いており、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
英国製造業が直面する深刻なエネルギー問題
英国の製造業団体であるMake UKとコンサルティングファームPwCが共同で発表した報告書によると、持続的なエネルギー価格の高騰が、英国製造業の競争力を著しく損ない、設備投資などの重要な経営判断を遅らせる要因となっています。調査対象となった製造業者のうち、4分の3以上がエネルギーコストを事業への「大きなリスク」と捉えており、約半数が価格高騰を理由に投資計画を「遅らせる、あるいは中止した」と回答しています。これは、エネルギー問題が単なるコスト増にとどまらず、企業の成長そのものを阻害する段階に至っていることを示しています。
欧州競合国との価格差が競争力を削ぐ
報告書が指摘する問題の核心は、英国の産業用エネルギー価格が、欧州の主要な競合国と比較して著しく高い水準にあることです。特に産業用の電気料金は、EUの平均よりも62%も高いとされており、国際市場で競争する上で極めて大きなハンディキャップとなっています。日本の製造業においても、エネルギーコストは生産コストを構成する重要な要素です。特に、鉄鋼、化学、セメント、製紙といったエネルギー多消費型産業にとっては、エネルギー価格の動向は収益性に直結する死活問題であり、英国の状況は決して他人事ではありません。
短期的な支援策の限界と長期戦略の必要性
英国政府はこれまでエネルギー価格高騰に対する支援策を講じてきましたが、2023年4月からはその規模が縮小され、多くの企業が支援の対象外となる見込みです。こうした状況に対し、Make UKは、短期的な支援だけでは不十分であり、産業界が安心して投資を継続できるような、長期的かつ安定的な産業エネルギー戦略を政府に強く求めています。報告書では具体的な提言として、送電網料金の一部免除の拡大、再生可能エネルギー導入の加速、企業のエネルギー効率化への投資支援などが挙げられています。目先のコスト対応に追われるだけでなく、エネルギーの安定供給と価格競争力のある調達をいかに実現するかという、国家レベルでの戦略が問われています。
日本の製造業への示唆
この英国の事例は、日本の製造業にとっても重要な教訓と実務的な示唆を与えてくれます。
1. エネルギーコストの経営リスクとしての再認識
エネルギー価格の変動は、単なるコスト要因ではなく、設備投資の判断や国際競争力そのものを揺るがす経営上の重要リスクです。自社のコスト構造におけるエネルギー費の割合を正確に把握し、価格変動が収益に与える影響(感度分析)を定期的に評価することが求められます。
2. 省エネルギー活動の継続と深化
日々の地道な省エネ活動の徹底はもちろんのこと、より抜本的な対策も視野に入れる必要があります。高効率な生産設備への更新、生産プロセスの見直しによるエネルギー原単位の改善、あるいはコージェネレーションシステムの導入など、より踏み込んだ投資判断が中長期的な競争力を左右します。
3. エネルギー調達戦略の多様化
電力・ガスの自由化が進む中、単一の供給者に依存するのではなく、調達戦略を多様化することがリスクヘッジにつながります。より有利な料金プランを提示する新電力への切り替え検討、自家消費型太陽光発電システムの導入による購入電力の削減、あるいはコーポレートPPA(電力購入契約)といった新しい調達手法の検討も有効な選択肢です。
4. 政策動向の注視と官民での対話
政府のエネルギー政策や、省エネ・再エネ導入に関する補助金・税制優遇などの支援策の動向を常に注視し、活用できる制度は積極的に活用すべきです。同時に、英国の事例が示すように、産業界が一体となって現場の実態に基づいた政策提言を行い、政府との対話を深めていくことも、事業環境を安定させる上で不可欠と言えるでしょう。

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