Fictiv社年次調査から読み解く、製造業の現在地 ― AIの期待と現実、サプライチェーン強靭化の次の一手

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グローバルな製造・サプライチェーン企業であるFictiv社が、第11回となる年次調査レポート「製造業・サプライチェーンの現状」を発表しました。本調査からは、AI導入への高い期待とその投資対効果(ROI)への課題、そして依然として続くサプライチェーンの混乱など、現代の製造業が直面するリアルな姿が浮かび上がります。

はじめに

Fictiv社が発表した本レポートは、製造業の意思決定者を対象とした調査に基づいており、昨今の業界が直面する主要な課題とトレンドを浮き彫りにしています。AI技術の活用、サプライチェーン戦略の見直し、持続可能性への取り組み、そして深刻化する人材不足といったテーマは、いずれも日本の製造業に携わる我々にとって、深く考察すべき内容を含んでいます。

AI導入の期待と現実 ― 投資対効果(ROI)への課題

調査によると、製造業のリーダーの87%が既にAIを導入している、または導入を計画していると回答しており、その関心の高さがうかがえます。主な目的として「生産性の向上」「市場投入までの時間短縮」「コスト削減」が挙げられており、AIが現場の効率化や競争力強化の鍵と見なされていることは明らかです。しかし、その一方で、AI導入による明確な投資対効果(ROI)を「まだ実感できていない」と回答したリーダーが79%にものぼるという事実は、注目に値します。これは、日本の現場でよく聞かれる「PoC(概念実証)止まり」や、導入したツールが特定の部門でしか使われず全社的な効果につながっていない、といった状況と重なります。AIを真の経営改善につなげるには、技術導入そのものではなく、現場の業務プロセスへの深い理解と、全社的なデータ基盤の整備、そして何よりも現場を巻き込んだ課題設定が不可欠であることを示唆しています。

依然として根深いサプライチェーンの課題

コロナ禍以降、サプライチェーンの混乱は製造業にとって最大の経営課題の一つであり続けています。今回の調査でも、実に88%ものリーダーが依然としてサプライチェーンの課題に直面していると回答しました。具体的には、「リードタイムの長期化」「コストの上昇」「サプライヤーの生産能力不足」などが上位に挙げられています。地政学的なリスクの高まりや、急激な需要変動が常態化する中で、サプライチェーンの脆弱性は未だ克服されていません。日本の製造業においても、特定の半導体や電子部品の調達難、原材料価格の高騰、物流コストの上昇は、収益を圧迫する大きな要因です。サプライチェーンの可視化や在庫の最適化といった従来の取り組みに加え、より抜本的な対策が求められている状況と言えるでしょう。

サプライヤー戦略の再構築 ―「集約」という選択肢

このような状況を受け、90%の企業がサプライヤー戦略の見直しを進めていることも明らかになりました。特に興味深いのは、78%がサプライヤーの「統合・集約」を検討している点です。これまでサプライチェーンのリスク管理と言えば、調達先を増やす「多様化」が主流と考えられてきました。しかし、管理が煩雑になる、品質がばらつくといった新たな問題も生じます。そこで、信頼できる主要サプライヤーとの関係を深め、連携を強化することで、品質管理の向上、コスト削減、コミュニケーションの円滑化を図るという「集約」への動きが加速しているようです。これは、かつての日本の製造業が得意とした、系列企業との緊密な連携の価値を、グローバルな視点で見直す動きと捉えることもできるかもしれません。

持続可能性(サステナビリティ)とコストのジレンマ

企業の社会的責任として、持続可能性への取り組みは避けて通れないテーマです。調査では98%という圧倒的多数が持続可能性を重要視していると回答しました。しかし、その実現を阻む障壁として「コスト」(41%)と「サプライヤーの協力不足」(33%)が挙げられています。環境対応型の素材への切り替えや、省エネルギー設備への投資には相応のコストがかかります。そのコストを製品価格に適切に転嫁できるか、また、サプライチェーン全体で環境負荷低減の取り組みを共有し、実行できるかという点は、日本企業にとっても共通の大きな課題です。理念だけでは進まないこの課題に対し、いかに経済合理性を見出し、取引先を巻き込みながら推進していくかが問われています。

イノベーションを阻む人材不足

最後に、本調査は人材不足が単なる労働力の問題ではなく、企業の成長を直接的に阻害する要因であることを指摘しています。91%のリーダーが、人材不足がイノベーションの妨げになっていると感じているのです。これは、熟練技術者の退職による暗黙知の喪失や、AIやIoTといった新しい技術を使いこなし、現場の改善を主導できるデジタル人材の不足を意味します。日本の製造業が長年抱えてきたこの課題は、今や企業の競争力そのものを左右するまでに深刻化しています。省人化・自動化投資と並行して、既存の従業員のリスキリング(学び直し)や、次世代の技術者を育成する仕組みを、いかに早急に構築するかが重要です。

日本の製造業への示唆

今回のFictiv社の調査結果は、グローバルな潮流であると同時に、日本の製造業が直面する課題を的確に映し出しています。我々がこの結果から得るべき実務的な示唆は、以下の通り整理できるでしょう。

1. AI・デジタル化は「導入」から「活用・定着」の段階へ:
AIツールの導入自体が目的化していないか、今一度立ち止まる必要があります。現場のどのような課題を解決し、どのような効果を生み出すのか。具体的な目標を設定し、効果測定を行いながら、粘り強くPDCAを回していく姿勢が求められます。

2. サプライチェーン戦略の再評価:
リスク分散のための「多様化」一辺倒ではなく、信頼できるパートナーとの連携を深める「集約」も有力な選択肢です。自社のサプライヤーをQCD(品質、コスト、納期)だけでなく、BCP対応力や持続可能性への取り組みといった多角的な視点から再評価し、戦略的なパートナーシップを構築すべき時期に来ています。

3. 人材への投資こそが最大の競争力:
自動化や省人化はあくまで手段であり、目的ではありません。技術継承の仕組みを再構築し、従業員が新しい技術を学ぶ機会を提供することで、人はより付加価値の高い創造的な仕事にシフトできます。人材を「コスト」ではなく、未来への「投資」と捉え、育成に本気で取り組む企業こそが、変化の時代を勝ち残っていくでしょう。

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