異業種に学ぶ産業振興のかたち:スペイン・テネリフェ島の事例から見る、戦略的な人材育成の重要性

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スペインのテネリフェ島で、視聴覚セクターが官民連携の取り組みにより大きな経済効果を生み出そうとしています。一見、製造業とは縁遠いこの事例には、日本のものづくりが直面する人材育成や地域連携の課題を解くヒントが隠されています。

地域産業振興の新たなモデル

大西洋に浮かぶスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島で、映像制作などを中心とする視聴覚(オーディオビジュアル)セクターが、目覚ましい成長目標を掲げています。報道によれば、2025年までに1億1700万ユーロ(約190億円)の経済効果と4,249人の新規雇用創出を見込むという、野心的な計画です。これは単なる景気変動によるものではなく、地域が一体となった戦略的な産業振興策の成果として注目されます。

日本の製造業においても、地域経済の中核を担う企業は少なくありません。特定の地域が特定の産業を戦略的に育成し、雇用と経済の好循環を生み出すこのテネリフェ島の取り組みは、我々が事業を展開する地域をいかに活性化させていくか、という視点からも興味深い事例と言えるでしょう。

成功の鍵は「生産管理」と「人材育成」

この取り組みの根幹を支えているのが、徹底した人材育成への投資です。記事では、省庁などと連携し、「生産管理コース」の提供や、教育・職業訓練センターでの講演活動が行われていることが報じられています。映画やドラマの制作といったクリエイティブな産業においても、予算、スケジュール、人員、資材といったリソースを管理し、プロジェクトを計画通りに完遂させる「生産管理」の能力が極めて重要視されていることがうかがえます。

これは、我々製造業の現場における生産管理や工程管理の思想と全く同じです。QCD(品質・コスト・納期)を最適化し、付加価値を最大化するという目的は、つくるものが工業製品であれ映像作品であれ変わりません。むしろ、こうした異業種で生産管理の重要性が認識され、体系的な教育が行われているという事実は、我々が自社の生産管理手法を見直し、その価値を再認識する良い機会となるのではないでしょうか。

産官学連携による持続的なエコシステムの構築

テネリフェ島の事例が示唆するのは、産業振興には企業誘致や補助金といった直接的な支援だけでなく、それを支える人材を継続的に育成・供給する仕組み、すなわち「エコシステム」の構築が不可欠であるという点です。行政(省庁)と教育機関(職業訓練センター)が連携し、産業界が求めるスキルセットを持つ人材を育成する。この産官学の連携が、産業全体の競争力を底上げし、持続的な成長の土台となっています。

日本の製造業、特に地方に拠点を置く企業にとって、人材の確保と定着は長年の経営課題です。個々の企業の努力には限界があり、地域の工業高校や大学、高等専門学校、そして自治体と連携し、地域全体で次世代のものづくり人材を育てていくという視点が、今後ますます重要になるでしょう。この事例は、その具体的なモデルケースの一つとして参考にできるはずです。

日本の製造業への示唆

今回のテネリフェ島の事例から、日本の製造業関係者が得るべき実務的な示唆を以下に整理します。

1. 異業種の成功事例から本質を学ぶ視点:
一見無関係に見える観光地での映像産業振興策ですが、その本質は「戦略的な目標設定」と「それを支える人材育成」、そして「産官学連携」にあります。自社の事業や業界の常識に囚われず、こうした構造的な成功要因を抽出し、自社の経営や人材育成戦略に応用する視点が求められます。

2. 生産管理能力の再評価と体系的な教育:
製造現場の根幹である生産管理のスキルは、業種を超えて通用する普遍的な経営能力です。自社の人材育成プログラムにおいて、OJTだけでなく、生産管理の原理原則を体系的に学ぶ機会を設けることの重要性を再認識すべきです。これにより、現場リーダーや若手技術者の問題解決能力や管理能力の向上が期待できます。

3. 地域を巻き込んだ人材育成への関与:
人手不足や技術承継といった課題は、一社の努力だけで解決できるものではありません。地域の教育機関との連携を深め、出前授業やインターンシップの受け入れ、共同研究などを通じて、将来の担い手となる若者にものづくりの魅力を伝え、地域に根差した人材を育成していく活動へ、より積極的に関与していくことが持続的な工場運営の鍵となります。

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