米国のエンターテインメント業界における求人情報の中に、日本の製造業関係者にとっても興味深い示唆を見出すことができます。本記事では、イベント設営の管理職に求められるスキルから、製造業で培われた技術や管理手法の普遍的な価値について考察します。
「生産管理」は製造業だけの言葉ではない
先日公開された、世界的なエンターテインメント企業Live Nationの「イベント・プロダクション・マネージャー」の求人情報には、3年以上のプロダクションマネジメント経験という要件が記載されていました。製造業に身を置く私たちにとって「生産管理(Production Management)」は馴染み深い言葉ですが、コンサートやライブイベントといった興行の世界でも、全く同じ言葉が使われている点は非常に興味深いと言えます。
イベント業界におけるプロダクションマネジメントとは、ステージ設営、音響、照明、映像機材の配置計画から、協力会社の選定、予算管理、現場での設営・撤収の指揮まで、イベント制作全体の工程管理を指します。これは、製品の受注から設計、部材調達、製造、出荷までを管理する製造業の生産管理と、その本質において多くの共通点を持っています。管理対象が「製品」か「イベント」かという違いはあれど、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)を最適化するという目的は同じなのです。
AutoCADスキルは業界を越える共通言語
この求人情報で特に注目すべきは、応募要件に「VectorworksまたはAutoCADの使用経験」が明記されている点です。AutoCADは、日本の製造業においても、機械設計や金型設計、工場レイアウトの検討など、幅広い場面で利用されている標準的な2D/3D CADソフトウェアです。
イベント設営の現場では、CADを用いてステージの配置、機材の吊り下げ位置、観客席からの視線、電源やケーブルの配線ルートなどを精密に図面化します。これにより、関係者間でのイメージ共有を円滑にし、現場での手戻りや安全上のリスクを未然に防ぐことができます。これは、製造現場で組立図や工程図を用いて作業標準化を図り、品質を担保するアプローチと通じるものがあります。製造業で培ったCADスキルが、全く異なる分野でも高く評価されるという事実は、技術者にとって自身のスキルの市場価値を再認識する良い機会となるでしょう。
一品生産のプロジェクトマネジメントからの学び
コンサートやイベントの設営は、毎回会場や内容が異なる、いわば「一品生産」のプロジェクトです。限られた時間と予算の中で、多様な専門分野の協力会社を束ね、一つのゴールに向かって作業を進める必要があります。このような現場で求められるのは、緻密な事前計画(段取り)と、不測の事態に迅速に対応する柔軟性です。
この点において、日本の製造業、特に多品種少量生産や試作品開発に携わる現場の知見は、大いに参考にされるべきものかもしれません。工程管理やサプライヤーとの連携、リスクアセスメントといった体系的な管理手法は、業界を問わず複雑なプロジェクトを成功に導くための強力な武器となります。逆に、エンターテインメント業界の現場が持つ、短期間でチームを組成し、変化に即応していくダイナミズムからは、私たち製造業が学ぶべき点もあるのではないでしょうか。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の求人情報は、私たち日本の製造業関係者にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
- 技術スキルのポータビリティ: AutoCADに代表されるような基礎的な設計スキルは、特定の業界に閉じたものではなく、社会の多様な場面で求められる普遍的な能力です。自社で育成した人材のスキルが、いかに価値の高いものであるかを再認識する必要があります。
- 管理手法の普遍性: 生産管理や品質管理といった、製造業が長年かけて培ってきたマネジメントのフレームワークは、他産業のプロジェクト管理にも応用可能な、非常に汎用性の高い知的資産です。自社の強みを再定義し、新たな事業領域を模索する上でのヒントとなり得ます。
- 異業種から学ぶ姿勢: 私たちが日常的に行っている業務や管理手法も、異なる視点から見れば新たな発見があります。エンターテインメントのような一見すると全く無関係に思える業界の事例からも、自社の改善につながる気づきを得ることは可能です。固定観念にとらわれず、幅広い分野にアンテナを張ることの重要性を示唆しています。


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