米国の新興企業であるSUPPLYCO AI社が、産業機械や部品メーカーといった製造業のBtoB営業に特化した、AIセールスインテリジェンス・プラットフォームを発表しました。米国内の製造業回帰という大きな潮流を背景に、データ駆動型の営業活動を支援する新たなツールの登場として注目されます。
製造業の営業活動に特化したAIプラットフォーム
ニューヨークに本社を置くSUPPLYCO AI社は、産業機械のOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーやその代理店を主な対象とした、AIセールスインテリジェンス・プラットフォームの提供を開始したことを発表しました。「セールスインテリジェンス」とは、AIやデータ分析技術を活用して、営業活動における有望な見込み客の発見や商談機会の特定を支援する考え方やツールを指します。
BtoC(消費者向けビジネス)の領域では、AIを活用したマーケティングや営業支援ツールは既に広く普及していますが、製品仕様が複雑で、顧客との関係構築が長期にわたる製造業のBtoB領域、特に産業機械や設備といった分野に特化したプラットフォームは珍しい取り組みと言えます。
米国の「製造業回帰」が開発の背景に
SUPPLYCO AI社は、このプラットフォームが「米国の製造業の再興(reindustrialization)を加速させる」ことを目的の一つに掲げています。近年、米国ではサプライチェーンの国内回帰や強靭化が国家的な課題となっており、政府の支援策などを背景に、国内での工場新設や設備投資が活発化しています。
このような市場環境の変化は、設備メーカーや部品サプライヤーにとっては大きな事業機会となります。しかし、どの地域で、どのような企業が、いつ頃、どのような投資を計画しているのか、といった情報を従来の人脈や足で稼ぐ営業手法だけで掴むには限界があります。同社のプラットフォームは、膨大な公開情報や市場データをAIで解析し、こうした新たなビジネスチャンスを効率的に特定することを支援するものと考えられます。
属人的な営業からデータ駆動型への転換
日本の製造業においても、営業活動は長年の取引関係や担当者の個人的なネットワークに依存する側面が根強く残っています。これは安定した関係性を築く上で強みとなる一方、新規顧客の開拓や市場変化への迅速な対応においては課題となる場合も少なくありません。
特に、ベテラン営業担当者の退職による人脈やノウハウの喪失は、多くの企業が直面する課題です。SUPPLYCO AI社のようなツールは、個人の経験や勘といった暗黙知を、データという形式知で補完・代替する可能性を秘めています。市場全体の動向や潜在顧客のニーズを客観的なデータに基づいて把握することで、より戦略的で効率的な営業活動を展開できると期待されます。
現時点では米国市場を対象としたサービスですが、製造業における営業・マーケティング活動のデジタル化という世界的な潮流を示す事例として、日本のものづくり企業にとっても参考になる動きと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の発表から、日本の製造業が学ぶべき点や、今後の事業活動の参考となる示唆を以下に整理します。
1. 営業活動におけるデータ活用の深化
顧客管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)の導入に留まらず、外部の市場データや企業情報とAIを組み合わせ、潜在的な需要を予測・発掘するという、より高度なデータ活用の可能性を検討する時期に来ています。これは、既存顧客への深耕と並行して、新たな成長機会を探る上で重要な視点です。
2. 新規市場・顧客開拓の効率化
国内市場の成熟や、EV化、脱炭素化といった産業構造の変化に対応するためには、これまで取引のなかった業界や新規参入企業へのアプローチが不可欠です。AIを活用した情報収集・分析は、こうした未知の領域における営業活動の初期段階を大幅に効率化し、成功確率を高める一助となり得ます。
3. 営業ノウハウの形式知化と人材育成
ベテランの知見に頼りがちな営業体制から脱却し、組織として市場を分析し、戦略を立案・実行する能力を高めることが求められます。データに基づいた営業アプローチは、若手担当者でも早期に成果を上げることを可能にし、組織全体の営業力底上げに繋がります。
4. サプライチェーン変動を事業機会へ
地政学リスクの高まりや経済安全保障の観点から、国内外でサプライチェーンの再編が続いています。このような大きな変化は、自社にとってのリスクであると同時に、新たな顧客を獲得する好機でもあります。市場の変化をいち早く捉え、営業活動に結びつけるための情報感度と仕組みづくりが、今後の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。


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