大手金鉱会社Kinross社の決算報告に関する情報をもとに、日本の製造業が学ぶべき業績評価指標のあり方と、現場の活動を経営成果に結びつけるための視点について考察します。装置産業や素材産業とも共通点の多い鉱業の事例は、我々のコスト管理や生産性向上の取り組みに新たな示唆を与えてくれます。
グローバルな資源企業の経営管理手法
先日、世界有数の金鉱会社であるKinross Gold Corporationが年次の決算報告を発表しました。鉱業は、巨額の設備投資と長期にわたる操業、そして変動の激しい市況への対応が求められる、極めて厳しい事業環境にあります。これは、日本の装置産業や素材産業、あるいは大規模な生産ラインを持つ製造業にとっても、決して他人事ではありません。彼らがどのように自社の業績を測定し、管理しているのかを紐解くことは、我々の工場運営や経営管理を見直す上で有益なヒントとなります。
元記事の断片には、「経営陣はこの指標(measure)を用いて、操業資産のパフォーマンスを監視・評価している」という一文が見られます。これは、単なる生産量や売上といった結果の数字だけでなく、事業の健全性や効率性を測るための特定の「ものさし」を重視していることを示唆しています。厳しい環境下で利益を確保し続けるためには、現場の活動から経営判断までを一貫した指標で貫き、組織全体で最適化を図ることが不可欠なのです。
製造業にも通じる「総維持コスト(AISC)」という考え方
鉱業界で近年重視されている指標の一つに、「AISC (All-in Sustaining Cost)」というものがあります。これは日本語で「総維持コスト」と訳され、金を1オンス生産するために、直接的な採掘コストだけでなく、探査費用、本社管理費、そして既存の鉱山を維持するための資本的支出まで、すべてを含んだコストを表す指標です。つまり、目先の操業コストだけでなく、「事業を将来にわたって維持していくために、トータルでいくらかかるのか」を可視化するものです。
この考え方は、日本の製造業における原価管理にも大いに参考になります。我々はしばしば、製品ごとの直接材料費や労務費、製造経費といった「製造原価」に目を奪われがちです。しかし、本当に競争力のある事業運営を行うためには、製品開発費、設備の維持・更新費用、品質保証コスト、さらには物流や廃棄に至るまでの「製品ライフサイクルコスト」や「TCO(総所有コスト)」といった、より包括的な視点でのコスト把握が求められます。AISCは、そうした包括的なコスト管理の重要性を我々に再認識させてくれます。
現場の改善活動を経営指標に結びつける
AISCのような包括的なコスト指標を改善するためには、採掘現場における生産性向上、設備の安定稼働、エネルギー効率の改善など、地道なオペレーションの改善が欠かせません。これは、日本の製造業の現場で日々行われているカイゼン活動やTPM(Total Productive Maintenance)活動と全く同じ構造です。
重要なのは、現場の「チョコ停を減らす」「段取り時間を短縮する」といった具体的な活動が、最終的に全社のコスト指標にどのように貢献するのか、その繋がりを明確にすることです。現場の努力が、経営層の評価する指標に反映され、正しく評価される仕組みがあってこそ、組織全体のモチベーションと改善のサイクルが力強く回り始めます。決算報告で示される数字は、まさに日々のオペレーショナル・エクセレンスの追求の結果に他ならないのです。
日本の製造業への示唆
今回のKinross社の事例から、日本の製造業が実務に活かせる示唆を以下に整理します。
1. 包括的なコスト管理指標の導入検討:
自社の事業特性に合わせて、従来の製造原価の枠を超えた、事業維持のための総コスト(例:設備維持更新費、研究開発費、間接部門費を含む製品・事業あたりのコスト)を把握する指標の導入を検討すべきです。これにより、より実態に即した収益性評価や投資判断が可能になります。
2. 現場活動と経営指標の連動の可視化:
現場で推進しているカイゼン、省エネ、品質改善といった活動が、財務諸表上のどの数字に、どのように影響を与えるのかを分析し、現場のメンバーにフィードバックする仕組みを構築することが重要です。これにより、現場は自らの活動の意義を実感でき、より経営的な視点を持った改善活動へと繋がります。
3. 長期的な視点に立った設備投資計画:
鉱業のように、一度投資すると長期にわたって操業を続ける事業では、短期的な回収効率だけでなく、設備のライフサイクル全体を見据えた投資判断が不可欠です。製造業においても、目先の導入コストだけでなく、将来のメンテナンスコスト、エネルギー効率、更新時期までを考慮した、戦略的な設備投資計画が求められます。


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