欧州CDMO大手の工場売却にみる、製造拠点の新たな戦略的価値

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医薬品の受託製造開発(CDMO)大手であるスウェーデンのレシファーム社が、イスラエルの製造拠点を売却しました。この動きは単なる資産整理ではなく、事業ポートフォリオの最適化と戦略的協業を目的としたものであり、日本の製造業が自社工場のあり方を考える上で示唆に富む事例です。

欧州CDMO大手による戦略的な拠点再編

医薬品の受託製造開発(CDMO)で世界有数の企業であるレシファーム社が、イスラエルにあるバイオ医薬品製造施設を、現地のバイオ医薬企業であるシナイ・イミュノセラピューティクス社に売却することを発表しました。注目すべきは、これが単なる工場の売却取引ではなく、両社間での長期的な協業契約も含まれている点です。つまり、資産の移管後も、互いの強みを活かした連携関係を維持することを意図した、戦略的な事業再編と言えます。

売却側と買収側、それぞれの狙い

今回の取引における両社の狙いは明確です。売却側であるレシファーム社にとっては、事業ポートフォリオを見直し、自社が強みを持つ中核事業へ経営資源を集中させることが主目的です。世界的なCDMO大手であっても、全ての拠点を自社で保有し続けるのではなく、事業環境の変化に応じて製造拠点の選択と集中を進めるという、冷静な経営判断がうかがえます。これは、固定資産の最適化という、製造業にとって普遍的な課題への一つの回答とも言えるでしょう。

一方、買収側であるシナイ社は、自社で開発を進めるワクチン等のバイオ医薬品の製造能力を、この工場取得によって確保する狙いです。これにより、開発から製造までの一貫した体制を構築し、サプライチェーンの安定化と、製品の迅速な市場投入を目指します。外部委託に依存するリスクを低減し、事業の根幹となる製造能力を内製化する動きは、近年のサプライチェーン寸断を経験した日本の製造業にとっても、他人事ではありません。

成長市場における「選択と集中」の加速

元記事でも触れられているように、医薬品の受託製造市場は年率6%を超える成長が見込まれる有望な分野です。特に、製造に高度な技術とノウハウを要するバイオ医薬品の領域では、専門性を持つCDMOの役割がますます重要になっています。しかし、市場が成長しているからこそ競争は激化します。このような環境下では、自社のリソースを最も得意とする領域に注力し、それ以外の部分は外部のパートナーとの連携で補完するという「選択と集中」が、企業の持続的な成長に不可欠となります。

今回の事例は、自社の製造拠点を「聖域」として固定的に捉えるのではなく、事業戦略全体の中でその役割を柔軟に見直し、時には売却や協業といった選択肢も辞さないという、ダイナミックな経営姿勢を示しています。これは、多くの製造拠点を国内に抱える日本の製造業にとっても、深く考察すべきテーマです。

日本の製造業への示唆

この事例から、日本の製造業が学ぶべき実務的な示唆を以下に整理します。

1. 製造拠点のポートフォリオ最適化:
自社の工場や生産ラインを、単なる「モノづくりの場」としてだけでなく、事業戦略を構成する「資産ポートフォリオ」の一部として捉える視点が重要です。市場の変化や自社の戦略転換に応じ、拠点の統廃合、売却、あるいは外部からの新たな機能の導入など、最適な組み合わせを常に模索し続ける必要があります。

2. 「所有」から「連携」へのシフト:
事業や工場の譲渡を検討する際、単に切り離して終わりにするのではなく、譲渡後も協業関係を維持するモデルは有効な選択肢となり得ます。これにより、技術やノウハウの円滑な移管が期待できるほか、従業員の雇用維持や取引先との関係維持にも繋がり、双方にとってメリットのある軟着陸が可能になります。特に、事業承継問題を抱える中小製造業にとっては参考になる考え方です。

3. 内製化と外部委託の戦略的判断:
サプライチェーンの強靭化を目的とした「内製化」と、経営の効率化や専門性確保を目的とした「外部委託」。この二つは相反するものではなく、事業の特性に応じて戦略的に使い分けるべきものです。今回の事例のように、ある企業にとっては売却(外部化)の対象となる工場が、別の企業にとっては内製化すべき重要な資産となるのです。自社のコア技術は何か、何を自社で持つべきかを常に見極め、最適な生産体制を構築し続けることが、今後の製造業経営において一層求められます。

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