グローバルな食品・農業大手である米カーギル社が、NTTデータと協業し、自社の製造拠点にプライベート5Gネットワークを導入したことを発表しました。この動きは、製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤として、次世代通信技術がいかに重要であるかを示す好例と言えます。
はじめに:なぜ今、プライベート5Gなのか
米国の食品・農業大手であるカーギル社が、製造オペレーションの近代化を目的として、NTTデータが提供するプライベート5Gネットワークの導入を進めていることが明らかになりました。製造業の現場では、IoTデバイスの増加やデータの高度活用が進むにつれて、従来のWi-Fiでは通信の安定性や速度、セキュリティの面で限界が見え始めています。特に、広大な敷地を持つ工場や、多数の金属製設備が電波を遮蔽するような環境では、信頼性の高い通信インフラの構築が喫緊の課題となっています。
カーギル社が目指す工場の姿
今回の発表によれば、カーギル社はNTTデータのプライベート5Gソリューションを導入することで、工場内の接続性を抜本的に改善し、スマートファクトリー化を加速させる狙いです。プライベート5Gは、パブリックな5G網とは独立した企業専用のネットワークであり、「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」という5Gの特長を、セキュアな環境で独占的に利用できる利点があります。
これにより、具体的には以下のような活用が期待されています。
- 生産設備のデータ収集と予知保全: 数千に及ぶセンサーから振動や温度などのデータをリアルタイムで収集・分析し、設備の故障予兆を検知する。
- AGV(無人搬送車)の安定稼働: 多数のAGVが工場内を走行する際、遅延のない安定した通信により、衝突を回避し、搬送効率を最大化する。
- AR(拡張現実)による遠隔作業支援: 現場作業員が装着したスマートグラスに、遠隔地の熟練技術者から指示や図面をリアルタイムで表示し、メンテナンス作業の精度と速度を向上させる。
- AI画像認識による品質管理: 高精細カメラで撮影した製品画像をAIで瞬時に解析し、不良品の検知や異物混入の防止を自動化する。
これらの取り組みは、単なる効率化に留まりません。作業員の安全確保、品質の安定化、そして最終的にはデータに基づいた迅速な意思決定を可能にし、工場全体の競争力を高めることにつながります。
日本の製造業現場における視点
このカーギル社の事例は、日本の製造業にとっても示唆に富んでいます。日本の工場は、建屋の構造や機械設備の配置から、従来のWi-Fiでは電波が不安定になりがちという課題を抱える現場も少なくありません。また、人手不足が深刻化する中、省人化や技術伝承は待ったなしの状況です。
プライベート5G(国内ではローカル5Gとも呼ばれます)は、こうした課題に対する有力な解決策となり得ます。例えば、食品工場であれば、HACCPに準拠した厳格な温湿度管理やトレーサビリティ情報のリアルタイムな収集・管理に応用できます。また、化学プラントのような危険区域では、防爆仕様のセンサーやカメラを多数設置し、中央監視室で一元的に状況を把握することで、安全性を飛躍的に高めることが可能です。NTTデータのような知見を持つパートナーと連携し、自社の課題解決に特化したネットワークを構築することが、DX成功の鍵となるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のカーギル社の事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. DXの土台は「つながる」インフラにある
スマートファクトリーの実現には、まず、あらゆる機器やセンサーが安定して「つながる」通信基盤が不可欠です。生産性向上や品質改善といった個別の施策を考える前に、その土台となるネットワークインフラの見直しを検討する価値は十分にあります。既存のWi-Fiで課題を感じている場合は、プライベート5G/ローカル5Gが有力な選択肢となります。
2. 目的を明確にし、スモールスタートで始める
プライベート5Gは強力なツールですが、導入自体が目的になっては意味がありません。「AGVの走行を安定させたい」「熟練者の技術を遠隔で伝承したい」など、解決したい具体的な課題を明確にすることが重要です。最初から工場全体に導入するのではなく、まずは特定の生産ラインや課題の大きいエリアに限定して導入し、効果を検証しながら展開する「スモールスタート」が現実的なアプローチです。
3. 専門知識を持つパートナーとの連携
5Gネットワークの設計・構築・運用には高度な専門知識が求められます。自社だけで全てを担うのは現実的ではありません。NTTデータのような通信とITの両方に精通したインテグレーターと連携し、自社の課題や環境に最適なソリューションを共に構築していく姿勢が成功の鍵を握ります。自社の強みである「ものづくり」の知見と、パートナーの「つなげる」技術を融合させることが、真の価値創造につながるでしょう。


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