インドで園芸担当官を対象とした品質管理研修が行われたという報道がありました。一見、製造業とは縁遠いニュースに見えますが、その背景には「品質は工程で作り込む」というものづくりの基本原則と、それを支える人材育成の重要性が見て取れます。本稿ではこの事例を元に、日本の製造業が改めて確認すべき品質管理の本質について考察します。
異分野の取り組みから見える品質管理の本質
先日、インドの大学で、地域の園芸担当官を対象とした高品質な果物の生産・管理に関する研修が実施されたとの報道がありました。これは農業分野の取り組みですが、私たち製造業にとっても示唆に富む内容を含んでいます。なぜなら、高品質な果物を安定的に生産するという目的は、不良品を出すことなく、安定した品質の製品を市場に供給するという製造業の目標と本質的に同じだからです。
製造業の現場では「品質は工程で作り込む」という言葉がよく使われます。これは、最終検査で不良品を選別するのではなく、生産工程そのものの質を高めることで、はじめから良品しか作られない状態を目指すという考え方です。今回の農業研修も、まさにこの思想に基づいていると言えるでしょう。収穫後の選別(検査)に頼るのではなく、栽培や管理といった上流の工程を担う人材の知識と技術を高めることで、最終的な果物の品質向上を図ろうというアプローチです。
「管理」の前提となる「人材育成」
この事例が我々に改めて問いかけるのは、品質を支えるのは仕組みや管理体制だけでなく、それを運用する「人」であるという事実です。製造現場においても、最新の検査装置を導入したり、精緻な品質管理システムを構築したりすることは重要です。しかし、それらを扱う作業者や技術者が、なぜその作業が必要なのか、どのような原理で品質が保たれるのかを深く理解していなければ、仕組みは形骸化してしまいます。
今回の研修は、単なる作業手順の伝達ではなく、専門知識を持つ大学が主体となって、科学的根拠に基づいた生産・管理技術の教育を行っている点に特徴があります。日本の製造現場でも、OJT(On-the-Job Training)による技能伝承は非常に重要ですが、それに加えて、品質工学や統計的品質管理(SQC)といった基礎的な知識教育を組み合わせることで、現場の対応力や問題解決能力をより一層高めることができるのではないでしょうか。
サプライチェーン全体での品質意識の重要性
果物の生産は、種苗の選定から始まり、土壌管理、栽培、収穫、そして流通・販売に至るまで、非常に長いサプライチェーンで成り立っています。園芸担当官という、いわば生産現場の指導者を育成することは、サプライチェーンの最も上流における品質レベルを底上げする取り組みと言えます。
これは、部品や原材料を外部から調達する製造業にもそのまま当てはまります。自社の製造工程をどれだけ改善しても、仕入れ先の品質が不安定であれば、最終製品の品質を保証することは困難です。優れた企業は、サプライヤーを単なる取引先としてではなく、品質を共に作り上げるパートナーとして捉え、品質監査や技術指導などを通じて、サプライチェーン全体の品質向上に積極的に関与しています。今回の事例は、自社の枠を超えて、サプライチェーンの上流から品質を作り込むことの重要性を再認識させてくれます。
日本の製造業への示唆
今回のインドの農業分野における人材育成の事例から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. 品質教育の原点回帰: 日々の業務に追われる中で、作業手順の遵守ばかりが強調されがちですが、今一度「なぜこの規格が必要なのか」「この作業が品質にどう影響するのか」といった原理原則に立ち返る教育の機会を設けることが重要です。これにより、従業員の品質に対する意識と理解が深まります。
2. 異業種からの着想: 製造業の枠内だけでなく、農業や食品、医療といった他分野の品質管理や人材育成の取り組みに目を向けることで、自社の課題解決に繋がる新たな視点やヒントを得られる可能性があります。業界の常識を一度脇に置き、本質的な課題解決のアプローチを学ぶ姿勢が求められます。
3. サプライヤーとの連携強化: サプライヤーからの納入品の品質は、自社の品質そのものであるという認識を徹底する必要があります。定期的な情報交換や品質監査はもちろんのこと、必要であれば技術支援や共同での改善活動を行うなど、より踏み込んだパートナーシップを構築し、サプライチェーン全体の品質レベルを引き上げることが、最終的な競争力に繋がります。


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