2026年に開催されるミラノ・コルティナ冬季五輪の国際映像を制作するオリンピック放送機構(OBS)は、女性をはじめとする多様な人材が活躍できる環境構築に注力しています。この取り組みは、人手不足や技能伝承といった課題を抱える日本の製造業にとっても、人材育成や組織運営を考える上で多くの示唆を与えてくれます。
はじめに:異業種から学ぶ組織づくりの視点
製造業が持続的に成長するためには、優れた技術や設備だけでなく、それを支える「人」の力が不可欠です。特に、労働人口の減少が深刻化する中、多様な人材がその能力を最大限に発揮できる組織づくりは、あらゆる企業にとって喫緊の経営課題となっています。今回は、一見すると製造業とは異なるスポーツメディアの分野、具体的にはオリンピック放送の現場での取り組みから、我々が学ぶべき点を考察します。
オリンピック放送機構(OBS)の取り組み:キャリアを通じた体系的支援
2026年ミラノ・コルティナ冬季五輪の国際映像制作を担うオリンピック放送機構(OBS)は、インクルーシブな(包摂的な)メディア環境の実現に向けた強い意志を示しています。同機構の制作管理ディレクターであるカレン・マリンズ氏は、「私たちは、女性たちのキャリアのあらゆる段階を支援しています」と述べています。これは、単に女性の採用人数を増やすといった入り口の施策に留まらず、入社後の育成、キャリア形成、リーダーへの登用まで、長期的な視点で人材を支えるという姿勢の表れです。
このようなアプローチは、専門性の高いスキルが求められる放送技術の現場において、人材の定着と成長を促し、組織全体の能力を底上げすることを目的としています。特定のイベントのために世界中から専門家が集まるプロジェクト型の組織でありながら、体系的な人材育成に投資するその姿勢は注目に値します。
製造業における人材育成との共通点と課題
OBSの取り組みは、日本の製造業が直面する課題と多くの点で共通しています。製造現場では、一度採用した人材が熟練の技術者や現場リーダーへと成長するまでには、長い年月と丁寧な指導が欠かせません。しかし、OJT(On-the-Job Training)に偏りすぎたり、キャリアパスが不明確だったりすることで、若手や中堅社員の成長が停滞し、離職につながるケースも少なくありません。
特に、これまで男性中心と見なされがちだった生産技術や品質管理、設備保全といった職務において女性の活躍を推進するためには、OBSが目指すような「キャリアのあらゆる段階」での支援が極めて重要になります。例えば、若手時代には基礎技術を習得するための体系的な教育プログラムを、中堅になれば後輩指導や改善活動をリードする機会を、そして管理職候補者にはマネジメント研修を提供するなど、各段階に応じたきめ細やかな育成計画が求められます。
また、出産や育児といったライフイベントとキャリア継続を両立できるような柔軟な勤務体系や、ハラスメントのない心理的に安全な職場環境の整備も、多様な人材が長く働き続けるための土台となります。これは単なる福利厚生ではなく、貴重な技能と経験を持つ人材を失わないための、重要な経営投資と捉えるべきでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のOBSの事例から、日本の製造業が今後の人材戦略を考える上で、以下の点を改めて確認することができます。
1. 長期的な視点での人材育成計画の重要性
場当たり的な人員配置やOJT任せの育成から脱却し、採用から退職までを見据えた体系的な育成計画を策定・実行することが不可欠です。従業員一人ひとりが自身のキャリアパスを具体的にイメージできることは、仕事への意欲向上と定着率の改善に直結します。
2. 多様な人材が働きやすい物理的・心理的環境の整備
性別や年齢、国籍にかかわらず、誰もが能力を発揮できる職場環境づくりが求められます。重量物作業の自動化やアシストスーツの導入といった物理的な改善に加え、誰もが気兼ねなく意見を言える、風通しの良い企業文化の醸成が、現場の知恵を引き出し、品質や生産性の向上にもつながります。
3. 組織としての意図的な機会提供
多様なリーダーを育てるためには、個人の頑張りだけに期待するのではなく、組織として意図的に挑戦の機会や責任あるポジションを提供していく必要があります。「あの人ならできるだろう」と待つのではなく、「この経験を積ませて育てよう」という能動的な姿勢が、次世代の経営層や現場リーダーを育む上で欠かせない要素となるでしょう。


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