米国が同盟国と連携し、重要鉱物のサプライチェーンから中国を排除しようとする動きが報じられています。しかし、中国側は技術的な優位性を背景に動じていない模様です。本稿では、その背景にある生産技術と、それが日本の製造業に与える影響について解説します。
米国の対中包囲網と中国の静かな自信
近年、電気自動車(EV)や半導体、防衛産業に不可欠なレアアースなどの重要鉱物をめぐり、地政学的な緊張が高まっています。特に米国は、自由主義圏の国々と連携して「重要鉱物アライアンス(MSP)」などを通じ、中国に依存しないサプライチェーンの構築を急いでいます。これは、日本の製造業にとっても他人事ではなく、調達戦略の再構築を迫られる大きな課題です。
しかし、Asia Timesの記事によれば、中国側はこうした動きに対して冷静な姿勢を崩していません。その自信の源泉は、単に資源の埋蔵量や採掘量だけでなく、鉱石から高純度の材料を分離・精製する「中流工程」における圧倒的な技術力とコスト競争力にあると考えられます。
強さの源泉「向流抽出技術」とは何か
記事では、中国の競争力の核として「向流抽出技術(Countercurrent Extraction Technology)」に言及しています。これは化学工学における分離技術の一種で、我々製造業の実務者にも馴染みのある考え方が応用されています。簡単に言えば、精製したい物質を含む溶液と、それを抽出するための溶媒を、互いに逆方向(向流)に流すことで、分離・精製の効率を極限まで高める技術です。
この技術の最大の利点は、複数回の精製サイクルを非常に効率よく、かつ低コストで実現できる点にあります。レアアースのように、性質がよく似た複数の元素が混じり合った鉱石から、特定の元素だけを高い純度で取り出す工程では、この技術が絶大な威力を発揮します。中国はこの分野で長年の研究と実用化を積み重ねており、海外の競合他社が数分の一のコストで、同等以上の品質の製品を大量生産できる体制を確立しているのです。
これは、単に設備を導入すれば模倣できるものではなく、運転ノウハウやプロセス制御といった、現場に蓄積された無形の知見が競争力の源泉となっています。我々が日々、工場の生産性改善で苦心しているように、中国もまた、この分野で地道な改善を積み重ねてきた結果と言えるでしょう。
サプライチェーンにおける日本の立ち位置
日本の製造業、特に高性能磁石を必要とするEVモーターや、特殊な材料を用いる半導体関連の企業にとって、この現実は非常に重い意味を持ちます。たとえ鉱石の調達先をオーストラリアやカナダに切り替えたとしても、その後の精製工程を中国に依存せざるを得ない、という構造的な課題が残るからです。
精製を他国で行う場合、中国と同等のコストと品質を実現できるかは不透明です。新たな精錬所を建設するには莫大な投資と時間がかかり、そこで働く技術者の育成も必要となります。結果として、サプライチェーンを切り替えた製品は、価格競争力を失ってしまう可能性も否定できません。経営層や調達部門にとっては、地政学リスクと経済合理性の間で、極めて難しい判断が求められる状況です。
日本の製造業への示唆
今回の報道から、我々日本の製造業が改めて認識すべき要点と、実務への示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーンリスクの再評価
リスクは資源の産出地に限らず、精製・加工といった「中流工程」にこそ存在することを強く認識する必要があります。自社製品のサプライチェーンを上流まで遡り、どの工程をどの国に依存しているのか、技術的なボトルネックはどこにあるのかを精密に把握することが不可欠です。
2. 中国の競争力の本質を理解する
中国の強みは、もはや安価な労働力だけではありません。特定の分野においては、今回のような高度な生産技術に裏打ちされた、本質的な競争力を有しています。この事実を冷静に受け止め、自社の技術戦略や事業戦略を策定する必要があります。
3. 国内技術開発と人材育成への投資
短期的には調達先の多様化を進めつつも、中長期的には国内での技術開発が重要となります。重要鉱物の精製技術や、使用済み製品からのリサイクル技術の高度化は、経済安全保障の観点からも避けては通れないテーマです。そのためには、化学工学や材料科学といった基礎分野を支える技術者の育成にも、企業として目を向けていくべきでしょう。
4. 現実的なリスクマネジメントの徹底
中国との完全なデカップリング(分断)が現実的でない分野も多いでしょう。その場合、過度に依存しないよう代替策を確保しつつ、リスクを管理しながら関係を維持していくという、より現実的でバランスの取れた戦略が求められます。複数のシナリオを想定したBCP(事業継続計画)の精度を高めておくことが、現場を守る上でも重要です。


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