南アフリカの大手鉱業会社で、創業者でもある会長が執行役から退くという発表がありました。その背景には、証券取引所が主導するコーポレートガバナンス改革があり、この動きは日本の製造業にとっても他人事ではありません。本記事では、この事例から経営の監督機能と執行機能の分離の重要性について考察します。
南アフリカで進むコーポレートガバナンス改革
南アフリカのヨハネスブルグ証券取引所(JSE)は、上場企業に対してコーポレートガバナンスの強化を求めています。その中でも特に重視されているのが、取締役会の独立性です。具体的には、企業の経営方針を決定し業務執行を監督する取締役会が、特定の個人の影響下に置かれることなく、客観的な意思決定を行える体制を構築することが求められています。これには、会長と最高経営責任者(CEO)の役割を明確に分離することや、長期間在任している取締役の独立性を見直すことなどが含まれます。
大手鉱業会社の対応事例
こうした規制強化の流れを受け、南アフリカの大手鉱業会社であるアフリカン・レインボー・ミネラルズ(ARM)は、創業者であり会長のパトリス・モセペ氏が2026年までに執行役員の役割から退くことを発表しました。今後は、業務執行には直接関与しない「非執行会長」として、取締役会の監督機能に専念する形となります。これは、強力なリーダーシップを持つ創業者が経営の監督と執行の両方を担う体制から、両者を分離し、ガバナンスの透明性を高めるための具体的な一歩と言えるでしょう。日本の製造業、特にオーナー企業においては、非常に示唆に富む動きです。
製造業における「監督」と「執行」の役割
元記事の断片には「生産管理:日々の採掘作業、生産量の最適化、効率改善」「安全・環境コンプライアンス」といった言葉が見られます。これらはまさに、工場や事業所における日々の「執行」業務そのものです。生産計画を立て、効率を改善し、安全や環境規制を遵守することは、製造現場の根幹をなす重要な役割です。
一方で、「監督」の役割は、こうした現場の執行が、会社の長期的なビジョンや戦略、そして株主をはじめとするステークホルダー全体の利益に適っているかを客観的に評価し、監督することにあります。短期的な生産目標の達成を優先するあまり、安全への投資やコンプライアンス遵守が疎かになっていないか。将来の成長に向けた設備投資や技術開発が、目先のコスト削減によって見送られていないか。こうした大局的な視点からのチェック機能が、持続的な企業成長には不可欠です。
経営者が執行の責任者であると同時に監督の責任者でもある場合、自身の執行業務を客観的に評価することが難しくなる可能性があります。監督と執行の役割を分離することは、こうした利益相反を防ぎ、健全な経営判断を促すための仕組みと言えます。
日本の製造業への示唆
今回の南アフリカの事例は、グローバルな潮流であるガバナンス強化が、企業のトップマネジメントのあり方に直接的な影響を与えることを示しています。日本の製造業がこの事例から学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
- 経営の透明性確保の重要性: グローバルなサプライチェーンの中で信頼を得て取引を継続するためには、経営の透明性や客観性は不可欠な要素です。海外の投資家や顧客は、企業のガバナンス体制を厳しく評価する傾向が強まっています。
- 「監督」と「執行」の意識的な分離: 経営層や工場長は、自らの業務が日々のオペレーションを回す「執行」なのか、それとも中長期的な視点で事業全体を方向づける「監督」なのかを常に意識することが重要です。特に、プレイングマネージャーとして現場業務も兼任する立場にある方は、時として一歩引いて監督者としての視点を持つことが求められます。
- 外部の視点の活用: 取締役会の独立性を高めるための有効な手段の一つが、社外取締役など外部の専門家の知見を取り入れることです。これにより、社内の論理だけでは見過ごされがちなリスクや機会を客観的に評価し、経営判断の質を高めることができます。
- 次世代経営体制への移行準備: 創業経営者や長年トップを務めてきた方が執行の第一線から退くことは、企業の持続的な成長に向けた重要なステップです。属人的な経営から、仕組みとしてのガバナンスが機能する体制へと、計画的に移行を準備しておく必要があります。


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