異物混入対策の新たな潮流:工場内の『遊離品』管理と国際安全基準の動向

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食品製造における異物混入対策は、これまで機械のメンテナンスが中心でした。しかし近年、ペンや工具といった工場内の備品類、いわゆる『遊離品』に起因するリスクが注目されており、国際的な安全基準もその管理強化を求めています。

異物混入対策の新たな焦点:機械から『遊離品』へ

長年にわたり、製造現場における異物混入対策は、機械の破損や摩耗による金属片などの混入を防ぐため、設備の予防保全に重点が置かれてきました。これはもちろん重要な取り組みですが、それだけでは十分とは言えません。近年、見落とされがちなリスクとして、作業者が使用するペン、結束バンド、手袋、工具といった『遊離品(Loose Items)』が異物混入の原因となるケースが問題視されています。

これらの備品や消耗品は、破損したり、誤って製品ラインに落下したりすることで、重大な物理的ハザードとなり得ます。日本の製造現場では、5S活動などを通じて備品管理の徹底が図られてきましたが、より能動的で検知可能な対策が求められる潮流にあります。

国際食品安全イニシアチブ(GFSI)の最新動向

この問題に対し、世界的な食品安全の枠組みであるGFSI(Global Food Safety Initiative)が新たな動きを見せています。2026年に発効が予定されている新しい要求事項では、この『遊離品』の管理を強化することが盛り込まれる見込みです。

GFSIは、FSSC 22000やSQFといった多くの食品安全認証スキームの基礎となる考え方を提供しています。そのため、この新しい要求は、今後のグローバルスタンダードとなる可能性が極めて高いと言えます。輸出を手掛ける企業はもちろんのこと、国内のサプライチェーンにおいても、取引先から同様のレベルの管理を求められる場面が増えていくと予想されます。

具体的な対策:検出可能な備品・消耗品の活用

こうしたリスクに対応する有効な手段として、『検出可能な(Detectable)』備品や消耗品の導入が挙げられます。これらは、素材自体に金属粒子や特殊な化合物を練り込むことで、製造ラインに設置された金属検出機やX線検査機で検知できるように設計されています。

対象となる備品は多岐にわたります。例えば、以下のようなものが製品化されています。

  • ペン、マーカー
  • 結束バンド、ケーブルタイ
  • スクレーパー、ブラシ
  • 耳栓、安全ゴーグル
  • 使い捨て手袋

万が一、これらの備品の一部が破損・脱落し製品に混入したとしても、最終工程の検査機で検知・排除できる可能性が格段に高まります。これは、従来の目視検査や整理整頓といった対策を補完する、強力な予防策となり得ます。

ツール導入だけでは不十分な、包括的な管理プログラム

ただし、単に検出可能な備品を導入するだけでは対策は万全ではありません。重要なのは、それらを管理するための包括的なプログラムを構築し、現場で確実に運用することです。

例えば、どのような備品を工場内に持ち込み、誰が使用し、どこで保管するのかを明確にする必要があります。日本の現場で徹底されている『定位置管理』や『員数管理』の考え方を、これらの検出可能備品にも適用することが求められます。また、備品の破損や紛失が確認された際の報告手順や、対象ロットの特定、回収といった具体的なアクションプランをあらかじめ定めておくことも不可欠です。こうした仕組みとツールが両輪となって初めて、リスクを実質的に低減できるのです。

日本の製造業への示唆

今回のGFSIの動向と『遊離品』管理の重要性は、日本の製造業、特に食品や医薬品、化粧品といった高い清浄度が求められる業界にとって、無視できないテーマです。以下に、実務上の要点と示唆をまとめます。

【要点】

  1. リスク認識の転換: 異物混入のリスク源は、製造設備だけでなく、現場で使用されるあらゆる備品・消耗品に存在することを再認識する必要があります。
  2. 国際基準への対応: GFSIの新しい要求事項は、今後の異物管理の標準となる可能性があります。特にグローバルに事業展開する企業は、早期の情報収集と対応計画の策定が求められます。
  3. 予防策の高度化: 従来の5S活動や目視管理に加え、金属検出機やX線検査機で検知可能な備品・消耗品を導入することは、予防策を一段高いレベルに引き上げる有効な手段です。
  4. 仕組みの重要性: 優れたツールも、それを管理・運用する仕組みがなければ機能しません。備品の持ち込みルール、定位置・員数管理、紛失時の対応手順などを定めた包括的な管理プログラムの構築が不可欠です。

【実務への示唆】

まずは自社の製造現場において、どのような『遊離品』が使用されているかを洗い出し、それぞれのリスク評価を行うことから始めるべきでしょう。その上で、特にリスクが高いと判断されるものから、検出可能な備品への切り替えを検討することが現実的なアプローチです。これは単なるコスト増ではなく、リコール発生による甚大な損失やブランドイメージの毀損を防ぐための、極めて重要な『品質投資』であると捉えるべきです。既存の品質管理システムやHACCPプランの中に、この『遊離品』管理の視点を組み込むことで、より堅牢な品質保証体制を築くことができるでしょう。

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