英国のAMサービス企業AM North社が、Fieldnode社の提供するデジタル在庫ネットワークに参加しました。この動きは、物理的な在庫を持たずに部品を供給する「デジタル在庫」と「オンデマンド製造」の連携を具体化するものであり、今後の部品供給網のあり方を示唆しています。
AMサービス企業とデジタル在庫プラットフォームの連携
2023年に設立された英国のAM(アディティブ・マニュファクチャリング)サービス企業であるAM North社は、設計からAMによる製造、後処理までの一貫したサービスを提供しています。この度、同社はFieldnode社が運営する「デジタル在庫ネットワーク」に参加することを発表しました。
この「デジタル在庫ネットワーク」とは、部品の3D設計データをプラットフォーム上で「デジタル在庫」として管理し、需要が発生した際に、ネットワークに加盟する認定製造パートナーがオンデマンドで部品を製造・供給する仕組みです。物理的な倉庫や部品在庫を持つ代わりに、データと製造能力をネットワーク化することで、必要な時に必要な場所で部品を調達することを目指しています。
日本の製造現場においても、特に多品種少量生産が求められる製品や、生産終了後の保守部品(サービスパーツ)の供給は大きな課題です。金型を長期間保管するコストや、少量生産のための段取り替えの手間を考えると、金型不要で製造できるAMとデジタル在庫の組み合わせは、こうした課題に対する有力な解決策となり得ます。
物理的在庫からデジタル在庫へ:サプライチェーンの変革
デジタル在庫とオンデマンド製造の組み合わせは、従来のサプライチェーンにいくつかの重要な変化をもたらす可能性があります。
第一に、物理的な在庫の削減です。特に、いつ需要が発生するかわからない補給部品などを長期間倉庫で保管する必要がなくなり、管理コストや廃棄リスクを大幅に低減できます。これは、企業のキャッシュフロー改善にも直結する重要なメリットです。
第二に、リードタイムの短縮とサプライチェーンの強靭化です。需要地の近くにいる製造パートナーが生産を担うことで、長距離輸送に伴う時間とコストを削減できます。また、特定の製造拠点への依存を減らし、供給網を分散させることで、自然災害や地政学的なリスクが発生した際にも、代替生産によって供給を継続しやすくなります。
もちろん、この仕組みを事業として成立させるには、製造される部品の品質をいかに担保するかが鍵となります。材料の管理、製造プロセスの標準化、検査基準の明確化など、ネットワーク全体で品質保証レベルを維持するための厳格な仕組みづくりが不可欠です。
個社の取り組みから「ネットワーク」という生態系へ
今回の事例が示す重要な点は、AM North社という一事業者が、Fieldnodeというプラットフォームに参加したという点にあります。これは、自社単独でオンデマンド製造体制を完結させるのではなく、標準化されたプラットフォームを介して、より大きなエコシステム(生態系)の一部として機能することを選択したことを意味します。
プラットフォーム側は、品質や納期、技術力といった基準で選定した製造パートナーをネットワーク化することで、部品を必要とする顧客企業に対して安定した供給能力を保証します。一方、AM North社のような製造サービス企業は、プラットフォームを通じて新たな受注機会を獲得できるというメリットがあります。
日本の製造業においては、伝統的に「自前主義」で技術や設備を内製化する傾向がありましたが、AMのような新しい技術分野では、専門性を持つ外部パートナーとの連携が成功の鍵を握ります。自社の強みに集中しつつ、外部のプラットフォームやサービスを戦略的に活用するという視点が、今後ますます重要になるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のニュースから、日本の製造業が実務レベルで検討すべき点を以下に整理します。
1. 保守部品・補給部品戦略の見直し
長期間にわたり保管している金型やデッドストックとなっている部品在庫について、デジタルデータ化とAMによるオンデマンド生産への移行を検討する好機です。在庫削減によるコスト圧縮と、顧客に対する長期的な部品供給責任の両立を目指す上で、現実的な選択肢となりつつあります。
2. サプライチェーンの再設計と強靭化
デジタル在庫ネットワークの考え方は、部品調達の地理的な制約を緩和し、より柔軟で強靭なサプライチェーンを構築する一助となります。特に、海外拠点向けの保守部品供給や、突発的な需要変動への対応策として応用が期待できます。
3. 品質保証とデータ管理体制の構築
AMで製造した部品を最終製品や重要設備に適用するには、材料からプロセス、最終製品検査に至るまでの一貫した品質保証体制の確立が不可欠です。また、設計データという重要な知的財産を外部のプラットフォーム上でどう管理・保護するのか、情報セキュリティに関する方針策定も避けては通れない課題です。
4. 外部プラットフォーム活用の検討
全てを自社で内製化するのではなく、Fieldnodeのような専門プラットフォームや、国内のAM受託造形サービス(サービスビューロ)との連携も積極的に視野に入れるべきです。まずは試作や治具製作などで外部サービスを活用し、技術的な知見やパートナーとの信頼関係を構築していくことが、将来の本格導入に向けた着実な一歩となるでしょう。


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