米国の金融情報サイトが発表した「注目すべき製造業銘柄」には、現代の産業構造を牽引する企業の名前が並びました。本稿では、これらの企業群から読み取れる大きな潮流と、それが日本の製造業にとって何を意味するのかを、実務的な視点から解説します。
はじめに:なぜ今、これらの企業が注目されるのか
金融市場、特に株式市場で注目される企業は、その時々の経済や産業の動向を色濃く反映しています。先日、米国のMarketBeatが取り上げた5つの製造業企業(Applied Materials、TSMC、Otis Worldwide、Johnson Controls International、MKS Instruments)も例外ではありません。これらの企業は単に業績が好調であるだけでなく、現代社会が直面する大きな変化、すなわちデジタル化とサステナビリティという二つの潮流の中心に位置している点が共通しています。我々日本の製造業関係者にとっても、その事業内容を深く理解することは、自社の将来戦略を考える上で多くの示唆を与えてくれるでしょう。
潮流の中心にある半導体サプライチェーン
注目企業5社のうち、実に3社が半導体関連です。これは、AI、IoT、EV(電気自動車)といった技術革新の根幹を半導体が担っており、その重要性がかつてなく高まっていることの証左と言えます。
Applied Materials (アプライド マテリアルズ) は、半導体を製造するための装置で世界トップクラスのシェアを誇る企業です。日本の東京エレクトロンなどとしのぎを削る存在であり、半導体製造プロセスの心臓部を支えています。彼らの技術動向は、次世代半導体の性能を左右する重要な要素です。
TSMC (台湾積体電路製造) は、自社で設計を行わず、他社の設計に基づいて半導体を製造する「ファウンドリ」と呼ばれる業態で世界最大手の企業です。AppleやNVIDIAといった名だたる企業の最先端半導体を手掛けており、現代のデジタル社会に不可欠な存在です。日本国内でも熊本に大規模工場を建設しており、国内の部品・素材メーカーにとって大きな事業機会であると同時に、その品質・コスト要求は極めて高い水準にあります。
MKS Instruments (MKSインストゥルメンツ) は、半導体製造プロセスで使われる精密な計測・制御機器やサブシステムを提供する企業です。製造プロセスの高度化・微細化が進む中で、彼らのような縁の下の力持ち的な企業の役割はますます重要になっています。日本の製造業にも、こうした特定の分野で高い技術力を持つBtoB企業が多く、グローバル市場で価値を発揮する上での一つのモデルケースとなり得ます。
社会インフラを支える高付加価値型製造業
残る2社は、我々の生活に身近な社会インフラを支える企業です。しかし、その事業モデルは単なる「モノ売り」から進化しています。
Otis Worldwide (オーチス・ワールドワイド) は、エレベーターやエスカレーターの分野で世界的なリーダーです。彼らの強みは、製品の販売だけでなく、その後の保守・メンテナンスといったサービス事業が収益の大きな柱となっている点にあります。IoT技術を活用した遠隔監視や予知保全によって、機器の安定稼働という価値を提供し、顧客と長期的な関係を築いています。これは、日本の多くの製造業が目指す「コト売り」への転換、すなわちサービス化の好例と言えるでしょう。
Johnson Controls (ジョンソンコントロールズ) は、ビルの空調(HVAC)やセキュリティ、制御システムなどを手掛ける企業です。彼らのソリューションは、ビルの省エネルギー化や快適性の向上に直結し、脱炭素社会の実現という大きな社会課題に応えるものです。個別の製品を納入するだけでなく、ビル全体のエネルギー効率を最適化するようなシステム・ソリューションとして提供することで、高い付加価値を生み出しています。
日本の製造業への示唆
今回取り上げられた企業群の動向は、日本の製造業が今後進むべき方向性を考える上で、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
- 半導体サプライチェーンの重要性の再認識
成長の中核である半導体分野において、自社がどのような形で貢献できるかを改めて見直すことが重要です。装置、素材、部品、あるいは精密加工技術など、日本のものづくりが持つ強みを活かせる領域は依然として広く存在します。 - 「モノ売り」から「コト売り」へのシフト加速
製品のライフサイクル全体を通じて価値を提供するビジネスモデルへの転換は、もはや避けて通れない課題です。自社製品にIoTやAIを組み込み、保守、運用支援、データ分析といったサービスを展開することで、収益構造の安定化と顧客との関係強化を図るべきでしょう。 - 社会課題解決への貢献という視点
省エネルギー、脱炭素、安全・安心といった社会的な要請に応える技術や製品は、今後ますます市場での評価を高めていきます。自社の技術がどの社会課題の解決に繋がるのかを再定義し、事業戦略に組み込むことが、新たな成長機会の創出に繋がります。 - グローバルなニッチトップを目指す戦略
全ての分野で世界一を目指すことは困難ですが、特定の技術領域や製品群において、なくてはならない「グローバル・ニッチトップ」の地位を築くことは可能です。自社のコア技術を見極め、そこに経営資源を集中投下する戦略の有効性が改めて示されたと言えるでしょう。
海外の市場動向を冷静に分析し、自社の強みと照らし合わせることで、変化の激しい時代を乗り越えるための道筋が見えてくるはずです。


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