電子機器受託製造(EMS)市場の拡大を背景に、生産性の向上と品質の安定化が喫緊の課題となっています。本稿では、この課題解決の鍵として注目されるスマートセンシング技術に焦点を当て、その概要と製造現場での具体的な活用法、そして日本の製造業が取り組むべき視点について解説します。
EMS市場の成長と技術革新の必要性
電子機器受託製造サービス(EMS)の市場は、2021年の5,000億ドルから2030年には7,500億ドル規模への成長が見込まれるなど、堅調な拡大が予測されています。この背景には、5G通信、IoT、自動車の電動化といった分野での電子部品需要の急増があります。市場が拡大する一方で、製品の多品種少量生産化、品質要求の高度化、そして国際的な価格競争はますます激しくなっています。このような環境下で競争力を維持・向上させるためには、従来の延長線上にある改善活動だけでなく、デジタル技術を活用した抜本的な生産性向上が不可欠です。
スマートセンシング技術とは何か
スマートセンシング技術とは、単に物理量(温度、圧力、振動など)を計測するだけでなく、センサー自体にデータ処理能力や通信機能を内蔵させた技術を指します。従来のセンサーが計測データを上位のコントローラー(PLCなど)に送る役割に特化していたのに対し、スマートセンサーは現場で異常を検知したり、データを自己診断したりすることが可能です。これにより、生産ラインの状況をよりリアルタイムかつ詳細に把握し、自律的な制御や判断に繋げることができます。これは、スマートファクトリーやインダストリー4.0を実現するための基盤技術と位置づけられています。
製造現場におけるスマートセンシングの具体的な活用例
スマートセンシング技術は、製造現場の様々な場面でその効果を発揮します。ここでは、代表的な活用例をいくつかご紹介します。
1. 設備の予知保全:
工作機械や搬送装置のモーターなどに振動・温度センサーを取り付け、稼働データを常時監視します。平常時と異なる振動パターンや温度上昇を検知することで、故障の兆候を早期に捉えることが可能になります。これにより、突発的な設備停止による生産ロスを防ぎ、計画的なメンテナンスを実施できるため、保全部門の負荷軽減と生産稼働率の向上に直結します。
2. 品質管理の高度化:
高精細な画像センサーや3Dセンサーを用いることで、人による目視検査では見逃しがちな微細な傷や実装部品のズレを自動で検出できます。また、センサーが収集したデータを統計的に分析し、品質のばらつきに影響を与えている工程パラメータ(温度、圧力など)を特定することも可能です。これにより、不良品の流出防止だけでなく、不良発生の原因を根本から断つプロセス改善へと繋げることができます。
3. 生産プロセスの最適化:
各工程の仕掛品や作業者の動きをセンサーで捉えることで、ライン全体のボトルネックを可視化できます。どこで滞留が発生しているか、どの設備の稼働率が低いかといった情報がリアルタイムで得られるため、データに基づいた的確な生産計画の立案や人員配置の最適化が可能となります。
4. サプライチェーンの可視化:
部品や製品にRFIDタグやセンサーを取り付けることで、工場内での位置情報だけでなく、輸送中の温湿度や衝撃といった環境データも追跡できます。これにより、トレーサビリティが向上し、万が一の品質問題発生時にも迅速な原因究明と影響範囲の特定が可能になります。
日本の製造業への示唆
スマートセンシング技術は、単なる自動化ツールではなく、工場のあらゆる事象をデータ化し、改善活動を加速させるための強力な武器となり得ます。日本の製造業がこの技術を有効に活用していくためには、以下の視点が重要になると考えられます。
1. スモールスタートによる効果検証:
最初から工場全体の刷新を目指すのではなく、まずは特定の課題(例:特定の設備の突発停止が多い、ある製品の不良率が高いなど)を解決するために、部分的にセンサーを導入し、その効果を実証することから始めるのが現実的です。小さな成功体験を積み重ねることで、現場の理解を得ながら展開していくことが肝要です。
2. データ活用の体制構築:
センサーを導入してデータを収集するだけでは意味がありません。収集したデータを分析し、現場の改善に繋げるための体制や人材が不可欠です。生産技術者や品質管理担当者がデータ分析のスキルを身につける、あるいはデータサイエンティストと連携するといった取り組みが求められます。
3. 現場の知見との融合:
スマートセンシングによって得られるデータは客観的な事実ですが、そのデータが持つ意味を深く理解し、有効な対策を立案するためには、長年培われてきた現場の知見やノウハウが欠かせません。最新のデジタル技術と、日本の製造業の強みである現場力を融合させることが、真の競争力強化に繋がるでしょう。


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