富士フイルム、英国に大規模バイオ医薬品工場を開設 – シングルユース技術が示す製造業の新たな潮流

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富士フイルムが、英国に大規模なバイオ医薬品のCDMO(医薬品受託開発製造)施設を開設することを発表しました。この動きは、成長著しいバイオ医薬品市場における同社の戦略的な一手であると同時に、近年の製造プロセスにおける重要なトレンドである「シングルユース」技術の活用を象徴しています。

富士フイルムによる英国での大型投資

富士フイルムは、英国ビリンガムに約10,200平方メートルの大規模なバイオ医薬品製造施設を新設します。この新工場は2026年前半の稼働を目指しており、同社のバイオ医薬品におけるCDMO(医薬品受託開発製造)事業の欧州における中核拠点となる見込みです。また、製造施設と並行して「バイオプロセスイノベーションセンター」も開設し、開発から製造まで一貫したサービス提供能力を強化する計画です。

製造の鍵を握る「シングルユース」技術とは

今回の新工場で特に注目すべきは、「シングルユース」と呼ばれる製造技術を全面的に採用している点です。これは、従来のようなステンレス製の大型タンクや配管ではなく、滅菌済みの樹脂製バッグやチューブといった使い捨ての部材を用いて医薬品を製造する方式を指します。

従来のステンレス製設備では、一つの製品の製造が完了するたびに、次の製品へのコンタミネーション(交叉汚染)を防ぐため、極めて厳格で時間のかかる洗浄・滅菌作業が必要でした。これは、我々製造業の現場で言うところの「段取り替え」に相当しますが、医薬品製造においては特にその工程が複雑かつ重要になります。シングルユース技術は、製造バッチごとに部材を交換するため、この洗浄・滅菌工程を大幅に簡略化、あるいは不要にすることができます。

この技術には、以下のような実務的なメリットがあります。

  • 立ち上げ期間の短縮:複雑な配管や洗浄設備の設置が不要なため、工場建設から稼働までの期間を短縮でき、初期投資も抑制できます。
  • 生産の柔軟性向上:多品種少量生産への対応が容易になります。顧客ごとに異なる多様なバイオ医薬品を、迅速かつ柔軟に切り替えて製造することが可能です。
  • コンタミネーションリスクの低減:使い捨ての閉鎖系システムであるため、交叉汚染のリスクを極めて低く抑えることができ、製品の品質安定に大きく寄与します。

一方で、消耗品であるバッグやチューブのコスト、使用後のプラスチック廃棄物の問題、そして特定サプライヤーへの依存といった課題も存在します。しかし、それを上回るメリットが、特に開発段階や個別化医療などで需要が拡大する多品種のバイオ医薬品製造において評価されています。

CDMO事業強化の戦略的背景

富士フイルムがこれほど大規模な投資を行う背景には、バイオ医薬品市場の急成長があります。製薬会社は、研究開発にリソースを集中させるため、製造プロセスを専門性の高い外部企業に委託する傾向を強めています。この需要に応えるのがCDMOというビジネスモデルです。

同社は、写真フィルム事業で培った精密な化学合成技術や品質管理ノウハウを応用し、バイオテクノロジー分野へ事業を転換させてきました。今回の投資は、その成長戦略を加速させるものです。欧州という巨大市場に最新鋭の生産拠点を構えることで、グローバルな製薬会社のニーズに対応し、競争優位性を確立する狙いがあると考えられます。

日本の製造業への示唆

今回の富士フイルムの事例は、日本の製造業にとっていくつかの重要な示唆を含んでいます。

  1. コア技術の応用と事業転換:自社の持つ中核技術が、一見すると関連性の低い異分野の成長市場で活かせる可能性を示しています。写真フィルムで培った技術がバイオ医薬品製造に応用されたように、自社の技術資産を棚卸しし、新たな市場を模索する視点が不可欠です。

  2. 製造プロセスの革新:シングルユース技術は、従来の「大型設備で大量生産」という固定観念を覆すものです。多品種少量生産、市場投入までの時間短縮、品質リスクの低減といった現代的な課題に対し、製造プロセスそのものを革新することが有効な解決策となり得ます。これは医薬品に限らず、食品や化粧品、特殊化学品など、衛生管理や柔軟な生産が求められる多くの分野で応用できる考え方です。

  3. 受託開発製造(CDMO)という選択肢:高い技術力と品質管理能力を持つ日本の製造業にとって、自社製品の製造だけでなく、他社の開発・製造を支援するCDMOのようなビジネスモデルは、新たな収益の柱となり得ます。自社の強みをサービスとして提供するという発想の転換が求められます。

  4. グローバルな拠点戦略:成長する市場の近くに生産・開発拠点を置くことの重要性を示しています。サプライチェーンの強靭化や顧客との連携強化の観点からも、グローバルな視点での拠点戦略を再検討する時期に来ていると言えるでしょう。

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