先日、フランス・パリでCG/VFX業界向けの生産管理ツール「Kitsu」のコミュニティイベントが開催されました。一見、製造業とは縁遠い世界の出来事に見えますが、その背景にある思想は、日本の製造現場が抱える課題解決のヒントとなり得ます。本記事では、このイベントの概要を紹介しつつ、日本の製造業への示唆を考察します。
CG/VFX業界発の生産管理ツール「Kitsu」とは
「Kitsu」は、元々CGアニメーションやVFX(視覚効果)といった、映像制作の現場から生まれたオープンソースの生産管理プラットフォームです。映像制作の現場は、多数の専門家(モデラー、アニメーター、コンポジター等)が連携し、複雑な工程を経て一つの作品を創り上げます。各工程には細かなタスクが存在し、その進捗、成果物のレビュー、フィードバックのやり取りなどを一元的に管理する必要がありました。Kitsuは、こうした複雑なプロジェクトの「誰が、何を、いつまでに」を可視化し、関係者間の円滑なコミュニケーションを促進するために開発されたツールです。
これは、我々製造業におけるプロジェクト管理や生産管理と非常に似た課題意識から生まれたものと言えるでしょう。特に、多品種少量生産や一品一様の受注生産、あるいは新製品開発プロジェクトのように、定型化しにくい業務の流れを管理する上で、その考え方は大いに参考になります。
初のコミュニティイベント「Kitsu Summit」開催の意義
元記事によれば、初の公式イベントである「Kitsu Summit」がパリで開催され、数十名の開発者やユーザーが集まりました。イベントでは、ツールの活用事例の共有や、将来の機能に関するディスカッションが行われた模様です。これは単なる製品発表会ではなく、ツールを実際に使う現場の人々と、開発者が直接対話し、共にツールの未来を創り上げていこうという姿勢の表れです。
この動きは、製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の進め方にも通じるものがあります。システムを導入して終わりではなく、現場のフィードバックを吸い上げ、継続的に改善していくプロセスこそが、ツールの定着と価値の最大化に不可欠です。ユーザーコミュニティを形成し、知見を共有し合う文化は、特定の企業や工場内にとどまらず、業界全体の生産性向上に寄与する可能性を秘めています。
なぜ異業種の事例に注目すべきか
CG/VFX制作と製造業、特にプロジェクト型のものづくりには、本質的な共通点があります。
- 専門分野の協業: 設計、加工、組立、検査といった異なる専門性を持つチームや協力会社が連携する点。
- 複雑な依存関係: 前工程の成果物が後工程のインプットとなり、一つの変更が全体に影響を及ぼす点。
- 品質と納期の厳守: クライアントの要求する品質を、定められた納期内に達成するという強いプレッシャーがある点。
CG業界は、物理的なモノが存在しないデジタルな世界であるがゆえに、こうした情報のやり取りや進捗の可視化といった課題に対し、いち早くデジタルツールを駆使して最適化を図ってきました。彼らの試行錯誤の末に生まれたツールや管理手法は、我々製造業が直面する「情報のサイロ化」や「コミュニケーションロス」といった課題を解決するための、貴重な他山の石となり得ます。
日本の製造業への示唆
今回のKitsu Summitのニュースから、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. プロジェクト型生産管理のデジタル化促進
従来のMRP(資材所要量計画)に代表される基幹システムだけでは管理しきれない、個別受注生産や試作品開発といった非定型業務に対し、Kitsuのような柔軟なプロジェクト管理ツールの導入は有効な選択肢です。工程の可視化は、ボトルネックの特定やリードタイム短縮の第一歩となります。
2. 部門横断でのリアルタイムな情報共有
設計変更や品質情報、進捗の遅れといった情報が、関係部署に即座に共有される仕組みは、手戻りの防止や迅速な意思決定に不可欠です。特定の担当者しか状況を把握していない「属人化」の状態から脱却し、誰もが必要な情報にアクセスできる環境を整えることの重要性が示唆されます。
3. 現場を巻き込んだツールの継続的改善
ITツールは「導入」がゴールではありません。実際にツールを使う現場の従業員の声を吸い上げ、改善を繰り返していく「共創」の姿勢が求められます。ユーザーコミュニティのような仕組みは、改善活動を活性化させる良いきっかけになるかもしれません。
4. 異業種のベストプラクティスに学ぶ姿勢
自社の業界の常識にとらわれず、全く異なる分野で培われた優れた管理手法やツールに目を向けることが、新たな発想やブレークスルーを生むことがあります。今回のCG業界の事例は、その好例と言えるでしょう。


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