太陽光と水から直接グリーン水素を製造する技術開発を進める米SunHydrogen社が、ドイツの太陽電池製造装置メーカーCTF Solar社との提携を発表しました。これは、実験室レベルの先端技術を商業生産へと移行させる上で、既存の製造技術やノウハウがいかに重要であるかを示す興味深い事例です。
提携の概要:水素製造技術と太陽電池製造技術の融合
米国のスタートアップ企業であるSunHydrogen社は、独自の光電気化学(PEC)技術を用いて、太陽光と水のみで水素を生成するデバイスの開発を進めています。この技術の実用化と量産化を加速させるため、同社は薄膜太陽電池の製造ライン構築に実績を持つドイツのCTF Solar社と、技術・製造サービスに関する契約を締結しました。この提携の目的は、CTF Solar社が持つ薄膜デバイスの量産ノウハウを活用し、SunHydrogen社の水素生成デバイスを「パネル」として商業生産するための製造プロセスを確立することにあります。
SunHydrogen社の技術と量産化への課題
SunHydrogen社が開発しているのは、半導体ベースの微細な粒子を水に浸し、太陽光を当てることで水を水素と酸素に直接分解する技術です。これは、従来の太陽光パネルで発電し、その電力で水を電気分解する方法とは異なり、プロセスを一体化できる可能性を秘めています。しかし、多くの先端技術が直面する壁と同様に、この技術も実験室での成功を、安定した品質とコストで大規模に生産する「量産化」の段階へ引き上げることが大きな課題となっていました。特に、微細な半導体粒子を効率よく機能させ、かつ長期間の耐久性を持つパネル構造にどうやって組み込むか、という点が製造技術上の要点となります。
CTF Solar社の役割:既存の量産ノウハウを応用
ここで重要な役割を担うのが、CTF Solar社です。同社は、カドミウム・テルル(CdTe)薄膜太陽電池のターンキー製造ラインを提供する企業であり、ガラス基板上に半導体膜を均一に成膜し、電極を形成し、それらを封止して信頼性の高い製品に仕上げる一連のプロセス技術に精通しています。この、広範囲な面積にわたって薄膜デバイスを精密に製造・加工する技術や知見は、SunHydrogen社の水素生成デバイスをパネル化するプロセスに直接応用できると考えられます。全く異なる製品であっても、ベースとなる製造プロセス(成膜、パターニング、封止など)に共通点を見出し、既存の技術基盤を活用して開発を加速させるという、非常に合理的なアプローチと言えるでしょう。
パイロット生産ラインの構築を目指して
両社の当面の目標は、SunHydrogen社の技術を商業規模で生産するためのパイロットラインを設計・構築することです。パイロットラインは、本格的な量産ラインを建設する前に、製造プロセスの安定性、品質の作り込み、生産タクト、そして最終的な製造コストなどを検証するための重要なステップです。この段階で課題を徹底的に洗い出し、解決策を見出すことが、事業の成否を分けることになります。異業種の知見を組み合わせることで、この困難なスケールアップの課題を乗り越えようとしています。
日本の製造業への示唆
今回の提携は、脱炭素社会の実現に向けた技術開発の動向として注目されるだけでなく、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 異業種連携による新事業創出:
水素製造技術と太陽電池製造技術という、一見すると異なる分野の技術を組み合わせることで、新たな製品の量産化を目指す動きは、自社のコア技術を新たな市場で活かす可能性を示しています。自社が長年培ってきた製造プロセスや品質管理のノウハウが、全く新しい分野の製品開発において課題解決の鍵となり得ることを認識すべきでしょう。
2. 「つくる技術」の普遍的な価値:
革新的な材料や原理が発見されても、それを安定的に、かつ経済合理性のある形で社会実装するには、「つくる技術」、すなわち生産技術が不可欠です。今回の事例は、プロセス開発、装置技術、品質保証といったモノづくりの根幹をなす技術の価値を改めて浮き彫りにしています。これは、日本の製造業が世界で競争力を維持してきた領域であり、今後もその重要性は増していくと考えられます。
3. グリーン分野における新たなサプライチェーンの可能性:
グリーン水素の製造方法が多様化する中で、今後、関連する部材、製造装置、検査装置など、新たなサプライチェーンが生まれる可能性があります。自社の技術が、こうした新しい産業のエコシステムの中でどのような役割を果たせるのか、常にアンテナを張り、事業機会を模索していく姿勢が求められます。


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