先日、インドで映画制作に関するワークショップが開催され、「プロダクションマネジメント」が主要なテーマの一つとして議論されました。一見、製造業とは縁遠い映画の世界ですが、その制作プロセス管理には、我々の生産管理に通じる普遍的な課題と、学ぶべき視点が含まれています。
映画制作も「モノづくり」の一つの形
インドの映画産業、通称「ボリウッド」では、映画制作の技術を学ぶためのワークショップが開催され、その中でプロダクションマネジメントが重要な議題として取り上げられました。プロダクションマネジメントとは、予算、スケジュール、人員、機材といったリソースを管理し、一つの作品を期日通りに、かつ質の高い状態で完成させるための管理手法を指します。これは、製造業における「生産管理」と目的や機能において本質的に同じものと捉えることができます。
映画制作は、脚本家、監督、俳優、撮影・照明・音響などの技術スタッフ、美術担当など、多岐にわたる専門家が集結するプロジェクトです。これは、設計、開発、資材調達、製造、品質保証、出荷といった各部門が連携して一つの製品を作り上げる我々の仕事と酷似しています。異なる専門性を持つチームをまとめ上げ、定められた納期とコストの中で最終製品(作品)を市場に送り出すという点において、両者は極めて近い構造を持っていると言えるでしょう。
プロジェクト型生産としての映画制作
製造業、特に量産工場における生産管理は、効率性や標準化、再現性を重視する傾向があります。決められた手順(標準作業書)に基づき、いかに安定して高品質な製品を、低コストで作り続けるかが主なテーマとなります。一方で、映画制作は毎回異なる脚本、キャスト、ロケ地で進められる「一品一様」のプロジェクト型生産です。
天候の変化による撮影スケジュールの変更、機材のトラブル、あるいはクリエイティブな側面での予期せぬ問題など、不確実性の高い要素を常に内包しています。このような環境下でのプロダクションマネジメントは、変化に即応する柔軟性、多様な専門家間の密なコミュニケーション、そして現場での迅速な意思決定が極めて重要になります。多品種少量生産やマスカスタマイゼーションへの移行が進む日本の製造業にとって、こうした不確実性を乗り越えるためのマネジメント手法は、大いに参考になるのではないでしょうか。
全体を俯瞰する人材の重要性
元記事では、プロダクションマネジメントや脚本、美術といった幅広い分野を理解することが、映画産業でのキャリア形成につながると述べられています。これは、製造業においても同様のことが言えます。自部門の専門性を深めることはもちろん重要ですが、それと同時に、製品が企画されてからお客様の手に届くまでのプロセス全体を俯瞰できる視点を持つ人材の価値は、今後ますます高まっていくでしょう。
特に、工場の運営を担う工場長や現場のリーダーには、個々の工程の効率化だけでなく、工程間の連携ロスをなくし、サプライチェーン全体を最適化するようなプロジェクトマネジメント能力が求められます。自分の担当範囲だけでなく、前工程や後工程で何が起きているかを理解し、全体最適の観点から判断を下せる人材こそが、企業の競争力の源泉となります。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、我々日本の製造業が改めて認識すべき要点を以下に整理します。
1. 生産管理の本質は普遍的であることの再認識
業種や製品が異なっても、限られたリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を最適に配分し、QCD(品質・コスト・納期)を達成するという生産管理の目的は変わりません。自社の管理手法を絶対視せず、時には異業種の事例から、その本質を学び直す謙虚な姿勢が重要です。
2. 不確実性への対応力強化
市場の需要変動やサプライチェーンの混乱など、現代の製造業を取り巻く環境は不確実性を増しています。映画制作のようなプロジェクト型マネジメントに学び、計画の変更に柔軟に対応できる生産体制や、現場での自律的な問題解決能力を高めていくことが求められます。
3. T字型人材の育成
一つの専門性を深く追求する(I字型)だけでなく、関連する他分野の知識も幅広く持つ(T字型)人材の育成が不可欠です。OJTや研修の場において、担当業務だけでなく、バリューチェーン全体を意識させるような教育機会を設けることが、将来のリーダーを育てる上で有効と考えられます。


コメント