米国のEV充電器政策における「国内調達100%」要求の波紋

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米トランプ前政権が、連邦政府の補助金対象となるEV充電器に対し、構成部品の100%を米国製とすることを義務付ける方針を示しました。この動きは、現行のバイデン政権による「バイ・アメリカン」政策をさらに強化するものであり、グローバルなサプライチェーンに依存する日本の製造業にとって、看過できない重要な変化の兆しと言えます。

米国で強まる保護主義的な調達政策

米国のトランプ前政権は、EV(電気自動車)充電インフラ整備への連邦政府による資金提供の条件として、極めて厳格な国内調達基準を設ける方針を明らかにしました。具体的には、充電器を構成する全ての部品や材料を100%米国内で調達することを義務付けるというものです。これは、米国内の製造業を活性化させるという、より大きな政策目標の一環として位置づけられています。

現行政策との比較と、その実現性

この方針は、現行のバイデン政権が推進する「バイ・アメリカン法」に基づく規制を大幅に上回るものです。現行規制では、EV充電器の最終組み立てを米国内で行うことに加え、部品コストに占める米国製の割合を段階的に引き上げ、現時点では55%以上とすることが求められています。これですら、多くのメーカーが対応に苦慮しているのが実情です。

それに対し、「100%国内調達」という要求は、製造現場の実務から見ると極めてハードルが高いと言わざるを得ません。特に、半導体や各種電子部品、特殊な樹脂材料など、米国内での生産が限定的、あるいは存在しない品目も少なくありません。グローバルに最適化された既存のサプライチェーンを完全に放棄し、全てを米国内で完結させることは、コスト、品質、納期のあらゆる面で多大な困難を伴うことが予想されます。

製造現場への具体的な影響

もしこの政策が現実のものとなれば、製造業の現場には以下のような影響が及ぶと考えられます。

サプライチェーンの抜本的な再構築:日本やアジア、欧州などから調達している部品は一切使用できなくなります。米国内で新たなサプライヤーを探し、品質評価、価格交渉、供給能力の確認を行う必要があり、これは数年単位の時間を要する一大プロジェクトとなります。

製造コストの急騰:競争力のあるグローバル調達から、限定された国内調達へ切り替えることで、部品コストが大幅に上昇することは避けられません。補助金のメリットを享受できたとしても、最終的な製品価格が上昇し、市場での競争力を失うリスクがあります。

品質と納期の不安定化:新規サプライヤーの品質管理体制や生産能力が、既存の取引先と同等である保証はありません。初期の品質トラブルや納期遅延が頻発する可能性も考慮すべきでしょう。製品全体の信頼性を維持するためには、これまで以上の受け入れ検査やサプライヤー指導が必要となります。

日本の製造業への示唆

今回の米国の動きは、EV充電器という特定分野に留まらず、今後のグローバルな事業展開を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

1. 地政学リスクを前提とした事業計画の必要性
一国の政策転換が、サプライチェーン全体を揺るがす時代にあることを改めて認識する必要があります。特に、主要な市場である米国の政策動向は、大統領選挙の結果次第で大きく変動する可能性があり、その動向を常に注視し、複数のシナリオを想定した事業計画を立てることが不可欠です。

2. サプライチェーンの多元化と地産地消の推進
特定国への過度な依存は、今回のような規制強化によって大きな経営リスクとなります。重要な部品については供給元を複数確保する「デュアルソース化」や、主要市場の域内でサプライチェーンを完結させる「地産地消」の取り組みを、コストとのバランスを見ながら戦略的に進めることが、これまで以上に重要になります。

3. 規制対象拡大への警戒
今回はEV充電器が対象ですが、同様の保護主義的な政策が、他のインフラ関連製品、さらには半導体、医療機器、再生可能エネルギー関連など、幅広い分野に拡大する可能性も否定できません。自社の製品分野における各国の政策動向を把握し、先を見越した対応を検討しておくことが、将来のリスクを低減させる鍵となるでしょう。

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