海外レポートに学ぶ、製造業における賃金格差の実態と課題 ― トルコ・アパレル業界の調査から

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国際的な調査機関が、トルコのアパレル製造業における男女間の賃金格差に関する詳細なレポートを発表しました。この内容は、グローバルなサプライチェーンの一部を構成する日本の製造業にとっても、人材確保やESG経営の観点から示唆に富むものです。

調査の背景:サプライチェーンにおける公正な労働

Global Fashion Agenda(GFA)と公正労働協会(Fair Labor Association, FLA)は、トルコのアパレル製造業における男女間の賃金格差(ジェンダー・ペイ・ギャップ)に関する調査レポートを発表しました。トルコは世界有数のアパレル生産国であり、多くのグローバルブランドのサプライヤーが集積しています。この調査は、サプライチェーンにおける人権や労働環境の透明性を高める取り組みの一環として、その実態と根本原因を明らかにすることを目的としています。

明らかになった賃金格差の実態

調査の結果、トルコのアパレル製造現場において、男女間の賃金格差が明確に存在することが確認されました。その内容は、単に賃金額の違いだけにとどまらず、より構造的な課題を含んでいます。具体的には、以下のような点が指摘されています。

同一労働における賃金差:同じ職務に従事しているにもかかわらず、女性の賃金が男性よりも低い傾向が見られました。これは「同一労働同一賃金」の原則が徹底されていない可能性を示唆します。

職務の分離:女性は組立や縫製といった比較的低賃金の職務に集中する一方、男性は裁断や管理職など、より高い賃金が得られる職務に就く傾向が強いことが分かりました。このような垂直的・水平的な職務の分離が、格差を固定化させる一因となっています。

無償ケア労働の負担:育児や介護といった家庭内での無償ケア労働の負担が、慣習的に女性に偏っていることも大きな要因です。これにより、女性は残業やキャリアアップにつながる機会を制限されがちになり、結果として昇進や昇給の道が狭められています。

格差を生む根本的な要因と求められる対策

レポートは、これらの賃金格差が、個々の企業の意図的な差別というよりも、社会的な規範や文化的な期待、そして構造的な障壁が複雑に絡み合って生じていると分析しています。つまり、問題の解決には、企業単位での取り組みだけでなく、業界全体でのアプローチが不可欠です。

解決策として、レポートでは以下のような具体的な取り組みを提言しています。

  • 賃金体系の透明化:客観的な基準に基づいた、透明性の高い賃金・評価制度を構築し、公開すること。
  • 採用・昇進プロセスの見直し:募集、採用、昇進の各段階で、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が介在していないか点検し、是正すること。
  • 柔軟な働き方の支援:育児や介護と仕事が両立できるよう、柔軟な勤務時間や休暇制度を整備すること。
  • スキルアップ機会の提供:女性がより高い専門性や管理能力を身につけられるよう、教育・研修の機会を公平に提供すること。

日本の製造業への示唆

このトルコの事例は、遠い国の話として片付けられるものではありません。日本の製造業にとっても、幾つかの重要な示唆を含んでいます。

1. 人材確保と定着への貢献:
国内の生産年齢人口が減少を続ける中、多様な人材が性別に関わらず、その能力を最大限に発揮できる環境を整備することは、企業の持続的な成長に不可欠です。公正な評価と待遇は、優秀な人材を確保し、その定着率を高めるための基本条件と言えます。

2. サプライチェーン・リスクとしての認識:
グローバルに事業を展開する企業にとって、自社だけでなく、サプライヤーにおける人権や労働環境の問題は、直接的な事業リスクとなります。近年、欧米を中心に人権デューデリジェンスを義務化する動きが加速しており、サプライチェーン全体での公正な労働慣行の確立は、もはやCSR(企業の社会的責任)の範囲を超え、経営そのものに関わる課題です。

3. 企業価値と競争力の向上:
ESG(環境・社会・ガバナンス)経営が重視される現代において、従業員の人権を尊重し、公正な労働環境を提供する企業は、投資家や顧客、そして社会から高く評価されます。自社の賃金体系や人事制度を客観的に見直し、必要に応じて改善していくことは、企業のレピュテーションを高め、長期的な競争力強化につながります。

まずは自社の職場において、賃金や昇進・昇格のデータに性別による不合理な差がないかを確認し、従業員が家庭の事情などを理由にキャリア形成を諦めることのないような支援制度が機能しているか、現場の声に耳を傾けることから始めることが重要です。

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