英国の生産マネージャーの求人情報に「歩留まりや不良率といったKPIに支えられた、堅牢な生産管理プロセスの確立」という一文がありました。これは国や業種を問わず、製造業の根幹をなす普遍的なテーマです。本稿では、この一文を切り口に、データに基づいた生産管理の在り方について考察します。
「堅牢な生産管理プロセス」とは何か
元記事にある「堅牢な(robust)生産管理プロセス」という言葉は、示唆に富んでいます。これは単に手順書やルールが整備されている状態を指すのではありません。原材料の品質変動、設備の突発的な不調、作業者の交代といった日常的に起こりうる変化や外乱に対して、安定して品質・コスト・納期(QCD)を維持できる、しなやかで強い仕組みを意味します。日本の製造現場で重視されてきた「標準化」の考え方に通じますが、そこには「パフォーマンスKPI」という客観的な指標によって、そのプロセスの有効性が常に監視・評価されているという視点が加わります。つまり、一度作って終わりではなく、データに基づいて継続的に強化されていくプロセスこそが「堅牢」であると言えるでしょう。
KPIが果たす役割:羅針盤としての指標
生産管理プロセスを支えるのが、歩留まり(Yield)や不良率(Defect Rates)に代表されるパフォーマンスKPI(重要業績評価指標)です。KPIは、現場の活動が目指すべき方向を指し示す「羅針盤」の役割を果たします。日々の操業において、管理職や現場リーダーが「今、我々のプロセスは正常な状態か、それとも異常が発生しているのか」を客観的に判断するための拠り所となります。KPIが単なる管理目標やノルマとして捉えられると、現場は窮屈に感じてしまいます。重要なのは、KPIを「プロセスの健康状態を示す体温計」や「改善のヒントを与えてくれる診断ツール」として位置づけ、現場の誰もがその数値を自分たちの活動の成果として捉えられるようにすることです。良い数値は自信に、悪い数値は問題意識の共有と改善活動のきっかけにつながります。
「歩留まり」と「不良率」から始めるデータ活用
数あるKPIの中でも、歩留まりと不良率は、製造業の収益性と品質を測る上で最も基本的かつ重要な指標です。歩留まりは投入した資源からどれだけの良品を生み出せたかを示す直接的な効率性の指標であり、少しの改善が利益に大きく貢献します。一方、不良率は品質の安定性を示すものであり、顧客満足度や手戻り・廃棄といった無駄なコストに直結します。多くの工場ではこれらのデータを取得していますが、その精度や活用度には差があるのが実情です。まずは、これらの基本的な指標を正確に、かつタイムリーに把握する仕組みを再点検することが、データドリブンな工場運営の第一歩となります。日々の朝礼で数値を共有する、工程ごとの推移をグラフで可視化するといった地道な活動が、現場の意識を変えるきっかけとなるはずです。
プロセスの定着に向けた課題
優れたプロセスを設計し、KPIを設定するだけでは、現場の力にはなりません。最も難しいのは、それを現場に定着させ、改善のサイクルを回し続けることです。日本では、「KPIのためのデータ入力作業に追われてしまう」「数値が悪化した際に、原因究明よりも先に責任追及の雰囲気が生まれる」「問題は見えているが、日々の業務に追われて改善に着手できない」といった課題が散見されます。こうした状況を避けるためには、経営層や工場長が、KPIを現場を縛るための道具ではなく、現場が自律的に問題を解決するための支援ツールとして位置づけるという強い意志を示すことが不可欠です。データから見えた課題に対して、必要なリソース(時間、人員、予算)を適切に配分し、改善活動を後押しする姿勢が問われます。
日本の製造業への示唆
今回の情報から、日本の製造業が改めて意識すべき点を以下に整理します。
1. KPIは目的ではなく手段である: KPIを設定し、数値を追いかけること自体が目的化しないよう注意が必要です。KPIはあくまで、より良い生産活動を実現し、問題解決を促進するための「手段」であるという原点を常に意識することが肝要です。
2. 基本指標の徹底的な活用: IoTやAIといった先進技術に関心が集まりがちですが、その前に、歩留まりや不良率といった基本的な指標を正確に把握し、日々の改善に活かすという足元の活動が疎かになっていないか見直す価値は大きいでしょう。すべてのデータ活用の土台は、この基本にあります。
3. 人とプロセスの両輪で考える: 堅牢なプロセスは、現場で働く人々の知恵と納得感があって初めて機能します。データという客観的な事実を共通言語としながらも、現場との対話を重ね、QCサークル活動のようなボトムアップの改善を促すことで、プロセスはより強く、しなやかになります。
4. 管理者の役割は「支援」である: 管理者やリーダーの役割は、KPIを用いて現場を管理・評価すること以上に、KPIが悪化した際に現場と一緒になって原因を考え、改善を「支援」することにあります。失敗を許容し、挑戦を促す文化を醸成することが、継続的なプロセス改善の鍵となります。


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