ウクライナの主要な火力発電所がロシアのミサイル攻撃により完全に破壊され、復旧には数年を要する見通しが報じられました。この事態は、遠い国の出来事ではなく、日本の製造業が直面する地政学リスクや事業継続計画(BCP)のあり方を考える上で、重要な示唆を与えています。
キーウ近郊の発電所、攻撃により機能を完全喪失
報道によると、ウクライナの首都キーウ近郊に位置するトリピッリャ火力発電所が、ロシアによるミサイル攻撃を受け、完全に破壊されたとのことです。同発電所の生産管理部門責任者は、タービン、変圧器、発電機といった中核設備がすべて破壊されたと述べており、その被害は壊滅的です。これは単なる一部の機能停止ではなく、生産インフラそのものが失われたことを意味します。
復旧に「数年」を要する背景
現場責任者は、復旧について「数ヶ月と言いたいところだが、おそらく数年かかるだろう」との見通しを示しています。この長期化の背景には、発電所のような大規模プラント特有の事情があります。特にタービンや大型変圧器といった重電設備は、その多くが特殊な仕様に基づく受注生産品です。発注から設計、製造、輸送、据付までには、平時であっても1年以上のリードタイムを要することが珍しくありません。戦時下という特殊な状況、さらに世界的なサプライチェーンの混乱を考慮すれば、部品や設備の調達は困難を極め、復旧が数年単位となるのは現実的な見立てと言えるでしょう。これは、我々が工場の特殊な生産設備の更新や大規模修繕を行う際に直面する、長いリードタイムやサプライヤー確保の課題と通じるものがあります。
生産インフラの脆弱性という現実
今回の事態は、電力という最も基本的なインフラがいかに脆弱であるかを改めて浮き彫りにしました。製造業にとって、電力供給の停止は生産活動の全面停止に直結します。たとえ自社の工場が無事であっても、電力網が破壊されれば事業を継続することはできません。また、こうしたインフラ攻撃は、サプライヤーの被災や物流網の寸断といった形で、サプライチェーン全体に深刻な影響を及ぼします。自然災害の多い日本においても、電力、ガス、水道、通信といった重要インフラへの依存度を再評価し、その途絶リスクに備えることの重要性は論を俟ちません。
日本の製造業への示唆
このウクライナでの出来事は、日本の製造業にとっても対岸の火事ではありません。地政学的な緊張が高まる現代において、我々は以下の点を改めて認識し、自社の経営や工場運営に活かしていく必要があります。
地政学リスクの再評価とサプライチェーンの強靭化:
遠い国の紛争と捉えず、自社のサプライチェーンがどのような地政学リスクに晒されているかを具体的に評価することが不可欠です。特定の国や地域に依存する原材料、部品、あるいは生産拠点の存在は、有事の際に深刻な供給途絶リスクとなり得ます。調達先の多様化や在庫戦略の見直しなど、サプライチェーンの強靭化に向けた具体的な取り組みが求められます。
事業継続計画(BCP)の高度化:
従来の自然災害を主眼に置いたBCPに加え、紛争やサイバー攻撃、インフラ破壊といった「人為的災害」も想定した、より広範なシナリオへの備えが必要です。代替生産拠点の確保、エネルギー供給源の多様化(自家発電設備や再生可能エネルギーの導入)、重要データのバックアップ体制など、事業の根幹を守るための対策を多層的に講じることが重要となります。
重要設備の保守と代替計画の策定:
発電所のタービンのように、代替が効かず、調達に長期間を要する重要設備は、あらゆる工場に存在するはずです。こうしたボトルネックとなる設備の特定、予防保全の徹底、そして万一の故障や被災に備えたスペアパーツの確保や代替生産プロセスの検討は、復旧時間を最小化する上で極めて重要です。設備の老朽化が進む中で、代替可能な汎用設備への更新を計画的に進めることも一考に値します。


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