米国の主要な製造業団体である全米製造業者協会(NAM)が、移民制度改革法案への支持を公式に表明しました。この動きの背景には、米国製造業が直面する深刻な労働力不足があり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
全米製造業者協会(NAM)が移民法改革を支持
米国最大の製造業団体である全米製造業者協会(NAM)は、下院で提出された移民制度改革法案「DIGNITY法案」への支持を表明しました。この法案は、国境警備の強化と、米経済が必要とする労働者を確保するための合法的な移民制度の整備を両立させることを目的としています。製造業の団体が、移民政策という国の根幹に関わる法案に公式な支持を表明するのは、異例のことと言えます。
背景にある、約70万人の人材不足
NAMがこの法案を支持する最大の理由は、米国製造業が直面する構造的な労働力不足です。NAMによれば、現在、米国の製造業全体で約70万人分の求人が埋まらない状態が続いています。工場の現場作業者から技術者に至るまで、幅広い職種で働き手の確保が困難になっており、これが生産能力の足かせとなり、ひいてはサプライチェーンの安定性や国際競争力にも影響を及ぼしかねないという強い危機感があります。
NAMの会長兼CEOであるジェイ・ティモンズ氏は、「製造業にとっての最優先事項は、より多くの働き手を見つけることだ」と述べており、労働力の確保が事業継続における最重要課題であるとの認識を示しています。今回の支持表明は、人材問題がもはや個社の努力だけで解決できる範囲を超え、国家レベルの制度改革を必要とする段階に来ていることの表れと見てよいでしょう。
経営課題としての人材確保
かつて、製造業における外国人労働力は、主にコスト削減の文脈で語られることが少なくありませんでした。しかし、今回のNAMの動きは、単に安価な労働力を求めるものではなく、事業を維持・成長させるために不可欠な「働き手」そのものを、国内外から問わず確保しようという、より切実な経営課題としての側面が強いと言えます。スキルを持った人材を合法的な手続きのもとで安定的に確保し、経済の担い手として迎えることが、国全体の産業基盤を支える上で重要だという考え方が根底にあります。
日本の製造業への示唆
今回の米国の動きは、少子高齢化により、さらに深刻な労働力不足に直面している日本の製造業にとって、決して他人事ではありません。以下に、我々が考えるべき点を整理します。
1. 労働力不足は、国境を越えた共通課題であることの認識
先進国の製造業は、程度の差こそあれ、同様の課題に直面しています。国内人材の確保が年々難しくなる中で、生産体制をいかに維持していくか。これは、すべての製造業にとって避けて通れないテーマです。
2. 外国人材活用の本格的な検討
人手不足への対応として、特定技能制度などを活用した外国人材の受け入れは、今後ますます重要な選択肢となります。重要なのは、彼らを単なる「労働力」としてではなく、共に働く「仲間」として受け入れ、技術を習得し、定着してもらうための環境整備です。言語教育や文化的な配慮、明確なキャリアパスの提示などが、これまで以上に求められます。
3. 省人化・自動化投資との両輪
人材確保の取り組みと並行して、ロボットやAI、IoTなどを活用した省人化・自動化への投資は不可欠です。ただし、目的は単に人を減らすことではありません。人を単純作業や過酷な作業から解放し、改善活動や設備のメンテナンス、後進の指導といった、人でなければできない付加価値の高い業務にシフトさせることが、生産性の向上と働きがいのある職場づくりに繋がります。
4. 経営戦略としての人的資本
労働力の確保と育成は、もはや人事部門だけの課題ではありません。自社の5年後、10年後の生産現場を誰が支えるのか。経営層が主導し、長期的な視点から人的資本戦略を策定し、必要な投資を継続的に行っていく必要があります。今回の米国の事例は、人材問題が事業の根幹を揺るがす経営の最重要課題であることを、改めて浮き彫りにしています。


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