なぜ多品種少量生産(ハイミックス)でロボット活用は進まないのか?普及を阻む構造的課題

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多品種少量生産への対応は、日本の製造業にとって重要な経営課題です。省人化や生産性向上の切り札として期待される産業用ロボットですが、その導入は思うように進んでいないのが実情ではないでしょうか。本稿では、海外の専門メディアの記事を元に、なぜ多品種少量生産の現場でロボットの本格展開が難しいのか、その構造的な課題を解説します。

はじめに:少品種大量生産と多品種少量生産の違い

まず前提として、ロボットによる自動化が大きな成果を上げてきたのは、主に自動車産業に代表される「少品種大量生産」の現場でした。生産する品目が限定され、長期間にわたり同じ作業を繰り返す環境では、ロボットはまさにその能力を最大限に発揮します。一度ティーチング(動作の教示)を行えば、あとは24時間、安定した品質で作業を続けることができ、投資対効果(ROI)も明確でした。

しかし、今日の製造業の主流となりつつある「多品種少量生産(ハイミックス生産)」の現場では、状況が大きく異なります。生産品目が頻繁に変わり、段取り替えが日常的に発生するため、少品種大量生産の成功体験をそのまま持ち込むことはできません。ロボット導入を阻む、より複雑で根深い課題が存在するのです。

計画・導入段階における壁

1. 投資対効果(ROI)の算出困難
多品種少量生産では、特定の製品や工程の生産量が少ないため、専用のロボットシステムを導入しても稼働率が上がりにくくなります。結果として、投資回収期間が長くなり、経営層を納得させるための明確なROIを示すことが困難になります。これは、自動化の初期段階で多くの担当者が直面する、最初の大きな壁と言えるでしょう。

2. システムインテグレーションの複雑さ
ロボットは単体で機能するわけではありません。ワークを供給する装置、位置決めをする治具、完成品を搬送するコンベア、そして作業者の安全を守る安全柵など、多くの周辺機器との連携が必要です。このシステム全体を設計・構築するシステムインテグレータ(SIer)の能力が重要になりますが、多品種少量への対応はSIerにとっても難易度が高く、コスト増や納期遅延のリスクを伴います。日本では、こうした複雑な要求に応えられるSIerが不足しているという実情もあります。

技術的な制約と柔軟性の欠如

3. 頻繁なティーチング作業の発生
生産する品目が変わるたびに、ロボットの動作を再設定する「ティーチング」作業が必要になります。この作業には専門知識が必要であり、生産ラインを停止させる時間も発生します。品種が多ければ多いほど、この段取り替えの工数が自動化のメリットを相殺してしまうのです。近年ではAIを活用したティーチングの自動化技術も開発されていますが、まだあらゆる現場で万能に使える段階には至っていません。

4. 多様なワークに対応できるハンドの不在
人間の手は、大きさや形、硬さが異なる様々なモノを実に器用に掴むことができます。しかし、ロボットの「手」にあたるハンド(グリッパー)はそうはいきません。製品ごとに異なる形状、重量、材質のワークを一つのハンドで掴むことは極めて困難です。ハンドを自動で交換するツールチェンジャーという仕組みもありますが、コスト増やサイクルタイムの悪化という新たな課題を生みます。

5. 視覚センサー(ビジョンシステム)の限界
人間の「目」の代わりとなるビジョンシステムも、万能ではありません。工場の照明条件の変化、ワークの光沢や僅かな位置ずれ、部品同士の重なりなど、人間なら無意識に補正できるような些細な変化が、ロボットにとっては認識エラーの原因となり、ライン停止に繋がります。AIによる画像認識技術の進歩は目覚ましいですが、現場環境で100%の認識率を安定して維持するには、まだ技術的なハードルが存在します。

6. 部品供給の難しさ
多品種の部品を、それぞれロボットが掴みやすいように整列させて供給する仕組み(パーツフィーダーなど)を品種ごとに用意するのは、現実的ではありません。箱の中にばら積みされた部品を直接ピッキングする「バラ積みピッキング」技術も注目されていますが、これもまた高度なビジョン技術と制御が求められ、導入のハードルは高いのが現状です。

運用・保守段階での課題

7. 予期せぬエラーへの対応力
熟練した作業者は、作業中に発生する僅かな異常(部品の引っ掛かり、位置のズレなど)を察知し、即座に修正することができます。しかし、ロボットはプログラムされた通りにしか動けません。そのため、些細なトラブルでも異常を検知して停止してしまい、その都度、人の介入が必要となります。いわゆる「チョコ停」が頻発し、結果的に生産性が上がらないというケースは少なくありません。

8. 変化への追従性
製造現場では、生産計画の変更、ラインのレイアウト変更、製品の設計変更などが日常的に発生します。固定的に設置されたロボットシステムは、こうした変化に柔軟に対応することが苦手です。変更のたびに大掛かりな改修や再ティーチングが必要となり、現場のスピード感を損なう原因にもなり得ます。

9. 専門人材の不足
ロボットを安定稼働させるには、ティーチングだけでなく、定期的なメンテナンスやトラブルシューティングができる人材が不可欠です。しかし、多くの企業ではこうした専門知識を持つ人材が不足しており、導入から保守までを外部のSIerに依存せざるを得ない状況にあります。

10. 品質保証の難しさ
特に、製品の傷や汚れ、色むらなどを確認する外観検査の工程では、人間の感覚的な判断基準をロボットで完全に再現することは困難です。数値化しにくい「官能検査」の領域は、自動化が最も難しい分野の一つとして残されています。

11. 協働ロボットへの過度な期待
安全柵なしで人と一緒に働ける協働ロボットは、多品種少量生産の救世主として期待されています。しかし、実際にはロボットの動作速度や、先端に取り付けるハンドの形状、扱うワークによっては、リスクアセスメントの結果、安全柵やセンサーの設置が求められるケースも多く、期待したほどの省スペース化や柔軟性が得られないこともあります。

日本の製造業への示唆

ここまで見てきたように、多品種少量生産におけるロボット活用には、多くの複合的な課題が存在します。これらの課題を踏まえ、日本の製造業がロボット導入を成功させるためには、以下のような視点が重要になると考えられます。

  • 完璧な自動化を目指さない:全工程を一度に自動化しようとするのではなく、まずは人間にとって負荷の高い作業(重量物の搬送など)や、単純な繰り返し作業など、最も効果が見込める工程に絞って「部分最適」から始めることが現実的です。人とロボットがそれぞれの得意分野を活かす「協働」の思想が求められます。
  • 自動化しやすい設計・工程を考える:ロボットを導入する前提で、製品設計(Design for Automation)や工程設計を見直すことが不可欠です。例えば、部品の形状を掴みやすく統一したり、位置決めしやすい基準を設けたりと、上流工程での工夫がロボット導入の成否を大きく左右します。
  • 内製化と人材育成:システムインテグレータに全てを委ねるのではなく、自社でも簡単なティーチングや改善ができる人材を育成する視点が長期的に重要です。まずは特定の担当者が基本的な知識を身につけ、小さな成功体験を積み重ねていくことが、社内にノウハウを蓄積する第一歩となります。
  • 技術の進化を冷静に見極める:AIやビジョンシステムの技術は日進月歩です。しかし、最新技術が自社の現場の課題を本当に解決できるのか、費用対効果は見合うのかを冷静に見極める必要があります。技術ありきではなく、あくまでも現場の課題解決という目的から、最適な手段を選択する姿勢が重要です。

多品種少量生産におけるロボット活用は、決して簡単な道のりではありません。しかし、これらの課題を一つ一つ丁寧に検討し、自社の実情に合った現実的な一歩を踏み出すことが、将来の競争力を築く上で不可欠と言えるでしょう。

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