米国で進む医薬品の国内一貫生産 ― サプライチェーン強靭化に向けた新たな提携事例

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米国の医薬品業界で、原薬(API)から最終製剤までを国内で一貫して製造する「エンド・ツー・エンド」の取り組みが本格化しています。この動きは、パンデミックを経て顕在化したサプライチェーンの脆弱性への対応であり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。

原薬から最終製剤まで、国内での一貫生産を目指す提携

ドイツのヘルスケア大手フレゼニウス・カービ社と、米国の公益企業であるフロー社が、米国内で医薬品をエンド・ツー・エンド(end-to-end)で製造するための戦略的提携を発表しました。この提携は、フロー社が先進的な連続製造技術を用いて製造した原薬(API: Active Pharmaceutical Ingredient)を、フレゼニウス・カービ社が注射剤などの最終製剤に仕上げ、米国内に供給するというものです。これにより、これまで海外、特にアジア地域に大きく依存してきた医薬品のサプライチェーンを、米国内で完結させることを目指しています。

背景にあるサプライチェーンの脆弱性と経済安全保障

この動きの背景には、COVID-19のパンデミックで露呈した、グローバルな医薬品サプライチェーンの脆弱性があります。多くの先進国では、コストの観点から原薬の製造を中国やインドといった国々に依存してきましたが、パンデミックや地政学リスクの高まりにより、この体制が必須医薬品の安定供給を脅かすリスクであることが明確になりました。これは医薬品に限った話ではなく、特定の国や地域からの部品・材料の調達に依存している多くの日本の製造業にとっても、決して他人事ではない課題です。米国政府はこれを国家安全保障上の重要課題と捉え、国内の生産基盤を強化する動きを強力に後押ししています。

国内回帰を可能にする先進製造技術(AMT)

単に生産拠点を国内に戻すだけでは、コスト競争力の問題から事業として成り立ちません。今回の提携における重要な点は、フロー社が持つ連続フロー製造をはじめとする先進製造技術(AMT: Advanced Manufacturing Technology)の活用です。従来のバッチ生産方式と比較して、連続生産はプロセスの効率化、品質の安定化、そして設備の省スペース化を実現できます。こうした生産技術の革新こそが、人件費などのコストが高い国内での生産を経済的に可能にするための鍵となります。日本のものづくりにおいても、国内の生産拠点の競争力を維持・向上させるためには、自動化やデジタル化といった生産技術への投資が不可欠であると言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の米国の事例は、日本の製造業に携わる我々にとっても、多くの実務的な示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. サプライチェーンの再評価と強靭化:
自社のサプライチェーンにおいて、特定の国や地域への依存度がどの程度高まっているか、改めて評価することが急務です。地政学リスクや自然災害などを想定し、調達先の複数化(デュアルソーシング)、国内生産への切り替え、あるいは近隣国での生産(ニアショアリング)といった選択肢を具体的に検討し、事業継続計画(BCP)に織り込む必要があります。

2. 企業間連携による国内生産体制の構築:
自社単独で川上から川下までの全工程を国内で完結させることは、容易ではありません。今回の事例のように、異なる強みを持つ国内企業同士が連携し、それぞれの専門性を活かすことで、強靭で効率的なサプライチェーンを構築するというアプローチは非常に有効です。業界の垣根を越えたパートナーシップも視野に入れるべきでしょう。

3. 生産技術革新への継続的投資:
国内生産の競争力を高めるには、コスト削減努力だけでなく、生産性や付加価値を向上させる技術革新への投資が不可欠です。自動化、IoT、AIなどを活用したスマートファクトリー化は、品質向上やリードタイム短縮にも繋がり、結果としてグローバル市場での競争力を高める源泉となります。

4. 経済安全保障の視点:
医薬品や半導体のように、自社の製品や部材が国の安全保障や国民生活に不可欠な「特定重要物資」に該当する可能性を常に意識しておくことが、特に経営層には求められます。政府の政策動向を注視し、自社の事業戦略に反映させていく視点が、今後の企業経営においてますます重要になるでしょう。

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